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宇宙戦艦ヤマト2199MMD外伝“第二次火星沖海戦”――序章

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以下の文章は、後日ニコニコ動画MMD杯ZEROにて公開予定の『宇宙戦艦ヤマト2199MMD外伝“第二次火星沖海戦”』の前日譚にあたります。
より具体的には、ガミラス戦争開戦前夜から第一次火星沖海戦に至る過程を描いたものです。
各種設定は、アニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』及び『宇宙戦艦ヤマト2202』に基づいていますが、公式設定では描かれていない部分や矛盾を感じる部分、特に個人的趣向を優先したい部分については、独自設定を採用していますので、予めご了承下さい。
また、表現媒体の違い故に、後日公開となりますMMD本編とも多少設定・展開が異なる部分がありますことも合せてご了承願います。



【序】
 2191年に勃発した地球と大ガミラス帝星の戦争(地球側呼称:ガミラス戦争)は、地球人類が初めて経験する外宇宙文明との全面戦争だった。
 だが、その初戦である天王星沖海戦において、両国の軍事・科学技術力に短日では埋めようのない圧倒的格差が存在することが判明する。僅か数隻と思われた異星人の艦船に、絶対的自信をもって送り込んだ二百隻余りの精鋭宇宙艦隊が完膚なきまでに叩きのめされたのである。
 そこで発生したあまりに大きな人的・物的損害に、開戦前、政府・市民がこぞって侵入者撃退を叫んだ“熱狂”は完全に霧散、地球圏全体が強大な外宇宙からの侵略者に怖気をふるった。

 開戦時、警備行動と称して国連統合軍が天王星系に派遣した戦力は、内惑星艦隊を中心とした彼らの保有する宇宙軍事力の実に50%、それも優良部隊ばかりを選りすぐった精鋭だった。
 その点、地球は十二分に“やる気”だった。
 後世からすると、そのあまりにも(ある種、楽観的なまでの)好戦的姿勢に驚かされるが、当時の地球には積極的にならざるを得ない事情が存在した。
 独立を目指した火星との二度に渡る内戦(第一次/第二次内惑星戦争)には勝利したものの、その後に訪れたのは地球経済圏全体を覆い尽くすような大不況であった。
 火星が行った、隕石を質量兵器として用いた前代未聞の開戦奇襲攻撃は、地球・月のインフラに甚大なダメージを与えると共に、一般市民にも多数の犠牲者が発生したことで地球の市民感情が奔騰、為政者たちは開戦早々、自国民に対し勝利後の火星への厳しい懲罰――各種開発の凍結や強制移住を含む人口削減――を約束せざるを得なかった。しかし、戦争が地球の勝利で終結し、実際にそれらの懲罰的措置を実施するにあたり、それが地球圏全体の経済リスクとなり得るという懸念が各国の財務関係者から示された。だが、戦争の終結によって求心力を失いつつあった各国首脳は、未だ戦争の記憶が生々しいこの時期に“金”と“景気”を理由に公約を反故にすることはできず、その結果、火星に対する懲罰的措置は断行されたのである。
 そして、各国の財務担当者が限定的と予想した不況は、後に『地獄の釜の底が抜けた』と称される程の凄まじい経済的損失を伴って具現化した。
 地球の各国政府は国連調整の下、大損害を受けた地球・月インフラの復旧を復興特需として呼び込むべく様々な経済政策を行おうとした。しかし、第二次内惑星戦争前、火星圏は最も開発投資が盛んなホットスポットであり、そこに投じられていた地球圏の余剰資金は、戦争と戦後の開発放棄によって完全に焦げ付いた。加えて、既に各国は火星との戦争で膨大な国家負債を抱え込んでおり、国家間での国債の買い支えも最早不可能な財政状況だった。
 つまり、当時の地球圏からは一時的に余剰資金が失われており、市場に購買能力が存在しない以上、各国がどれほど国債を発行しても意味はなかった。
 その結果、地球圏は未曽有の大不況に突入し、各国で大き過ぎる政治問題、経済問題と化した。当然、市民からの不満も天井知らずであり、中でも大量に強制移住させられた旧火星市民は地球において最底辺の地位に甘んじざるを得ず、地球市民による様々な差別や迫害、酷い場合にはコミュニティー単位での私刑事件すら発生した。勿論、独立志向が旺盛な上に、強制移住に対する怒りも大きい旧火星市民も黙っておらず、団結してこれに対抗した為、各地で軋轢や衝突が頻発、治安の悪化をはじめとする大きな社会問題となった。
 そうした広範な市民からの不満は政治へも向かい、幾つもの国で政権交代が行われ、体制の刷新が図られた。しかし、一国家レベルでは抗いようのない外的要因を前にしては、大きすぎる期待を受けた政権交代でさえ、更なる不安定化の要因にしかならなかった。
 2190年代に入ると、多くの国で移り気な民意に国政が左右される衆愚政治化が進み、過激な発言での人気取りに長けた政治家が舌先三寸で首脳にまで上り詰めるなど、政治家の矮小化と国民の右傾化が世界的傾向としてはっきりと認識されるようになっていた。



 天王星軌道に設置された監視ステーションが、外宇宙から接近してくる複数の存在を捉えたのはそんな折のことだった。大遠距離からの初期観測の結果、それは彗星や隕石の類ではなく、明らかな人工物――それも何らかの推進力を有する“船”だと判明する。
 当初、国連及び地球の主要各国は、その“船”を第二次内惑星戦争時に太陽系外に逃れた火星独立軍の残党ではないかと疑い、自国軍に対して即座に警戒態勢を取るよう命じていた。そうした状況は程なくして地球市民の知るところとなり、第二次外惑星戦争時の甚大な被害を記憶している市民たちが強い不安に駆られた結果、旧火星市民に対する風当たりや市民間の軋轢が深刻さを増した程だった。
 幸い、その後の各国軍による徹底した観測とデータ解析により、天王星圏へとゆっくりと近づきつつある謎の“船”は、地球由来のものとは全く異なる技術体系の産物であることが証明され、旧火星市民に対する市民感情もようやく平静を取り戻した。しかしそれでも、各国政府の発表を陰謀だと頭から決めつける者、火星人が異星人に救援を求めたのだと荒唐無稽な主張する者も多く、それどころか旧火星市民コミュニティーに対するテロ行為に走る者すら少なくなかった。だが、そうした“狂信の輩”による過激な政治行動やテロリズムによって、収まりかけていた市民の不安感情は再び揺さぶられ、これに引きずられるように各国内政は更に不安定さを増していった。
 そんな中、市民の間から『異星人であれ何であれ、それが危険な存在なら吹き飛ばしてしまえ』という極めて過激且つ攻撃的な主張が台頭し始める。深刻な不況と社会不安、それらに対する大きすぎるな不満が長期に渡って滞留し続けたことで、人間の理性や健全な社会常識は脆弱化し、極めて直截的で動物的な(攻撃的な)反応を是としてしまったのである。
 そして、当時多くの国のトップを占めていた衆愚政治家たちは、急速に台頭した危険な市民感情を鎮静化するどころか、自らそれに迎合し、更に煽り立てた。彼らにしても、この状況は絶好のチャンスだったからだ。
 外敵を作り出すことで行き詰った内政問題を有耶無耶にする――人類史上、何度も繰り返されてきた、手垢のついた政治的詐術。禁断の果実とも称されるそれは、殆どの場合、狂ったような熱情と退廃の中でもぎ取られるものと相場は決まっていた。
 その日、緊急開催された国連安保理もまた奇妙なまでの熱気と熱狂に支配されていた。各国代表は、異星からと思しき謎の侵入者に対し、地球圏の平和を守れるのは我々だけであるという空疎な主張を繰り返し、万雷の拍手がそれに応えた。接近者の正体が分らない以上、より慎重な対応が必要だと主張する意見も存在したが、その声はあまりに小さく、僅かだった。
 こうして、最早討議にも値しない狂騒の中、圧倒的多数の賛成により国連宇宙海軍内惑星艦隊の動員と天王星系への警備派遣が決定されたのである。



 僅か数隻の侵入者の“船”に対し、天王星系に派遣された地球戦力は各国から抽出された優良部隊ばかり二百隻にも及び、主要各国首脳は外宇宙からの侵入者撃退に強い自信を持っていた。それ故に、領域侵犯を警告する地球側の通信に対し、侵入者が応じる気配がないと見るや、即座に実力での排除命令が下された。
 これに驚いた国連宇宙海軍の艦隊指揮官は、排除命令――実質的な攻撃命令はあまりに性急過ぎるとして反対の意見具申を行ったが、国連安保理の下部組織である国連宇宙防衛委員会は指揮官の更迭を行ってまで命令を実行させた。
 結果は――あまりにも無残であった。
 僅か数隻と判断された異星船は、実際にはその後方に五十隻もの艦隊戦力を潜ませており、それらが地球側の先遣艦――村雨型宇宙巡洋艦“ムラサメ”――の先制攻撃と同時に戦場に急迫、地球艦隊に襲いかかったのである。
 勿論彼らは火星独立軍の残党などではなく、正真正銘の外宇宙文明、それも技術レヴェルで言えば少なくとも数世紀は先を行く先進文明の保有者たちであり、彼我の攻撃力、防御力、機動力の差は懸絶していた。
 僅か数時間の戦闘で、地球各国が選りすぐった最精鋭の宇宙戦力は、損耗率80%を超える甚大な損害を受けて壊滅した。
 『天王星沖海戦』と命名された一連の戦闘の結果、国連宇宙海軍は一線級の機動戦力の多くを失っただけに留まらず、膨大過ぎる人的損失から、組織としても半身不随の状態に陥った(事実、本海戦後一年近くに渡り、国連宇宙海軍の作戦能力・作戦指導能力は酷く低下した)。
 一方的な敗北と大きすぎる損害に驚いた国連宇宙防衛委員会は、開戦第一撃を地球から行ったという事実を厳重に隠匿すると共に、警備活動中だった国連宇宙海軍は明確な侵略意図を持った外敵から、卑怯にも先制奇襲攻撃を受けたという発表を各国市民に行うことを決定。六大州及び各管区の軍務局が中心となって、開戦及び先制攻撃の実情を知る関係者に、半ば脅迫まがいの方法を用いてまで厳しい緘口令を敷いた。天王星沖で死力を尽くして戦い、辛うじて生還した艦隊指揮官の中には、これらの処置に激怒し、激しく抵抗する者もいたが、そうした者は外惑星の基地への転属や、酷い場合には予備役編入といった措置が採られ、完全に封殺されてしまった。
 しかし、それらの強硬手段によって、国連宇宙海軍は戦場のみならず後方でも実戦経験豊富且つ優秀な高級指揮官多数を失う結果となり、それはこの後の戦いにおいても、決して小さくない負の影響を地球軍事力に与え続けることになる。

 こうして内政的な帳尻は強引につけられたものの、“外的要因”はそうはいかなかった。仮にこの時点で、侵入者改め侵略者たちが連続した攻勢を発起したならば、実戦部隊の多くを喪った国連統合軍に抗う術はなく、太陽系は容易に制圧されるであろう事は疑いようがなかったからだ。そして、軍事的定石で言えば攻勢側のこうした行動は寧ろ当然だった。
 しかし何故か侵略者たち――大ガミラス帝星国防軍――は動かなかった。

 一般的にはワンサイドゲームとして知られる天王星沖海戦であるが、その実際は大きく異なる。
 確かに、サレザー恒星系第四惑星を出自とするガミラス軍の科学技術・軍事技術力は地球からすれば隔世の感を覚えるほどに圧倒的であり、本海戦におけるガミラス艦艇の喪失は“ゼロ”であった。しかし、何らかの損傷を受けた艦は海戦参加艦艇の実に半数近くに及んでおり、海戦後の戦場の支配権をガミラス軍が掌握していなければ、放棄する他ないと判定される程の大損害を受けた艦まで存在していたのである。
 ガミラス軍にとっての驚きは、地球側の戦技と戦意の異常なまでの高さにあった。
 確かに地球艦艇は、ガミラス艦艇と比べて攻撃力・防御力・機動力いずれの面においても比較にならない程劣勢であったが――全く無力ではなかった。
 その砲撃は、威力はともかくあらゆる距離からガミラス軍を上回る命中精度を示していたし、中小艦艇は劣速にもかかわらず僚艦との巧みな連携と陽動でほぼゼロ距離まで肉薄、砲雷撃を戦隊単位で集中してきた。更に、駆逐艦の中には艦首装甲翼やロケットアンカーを直接ガミラス艦の艦橋に叩きつける艦まで存在した程だ。
 本海戦に投入された地球艦隊は、第二次内惑星戦争を戦い抜いた豊富な実戦経験と、それに裏付けられた極めて高い技量、戦意を有しており、敵軍との圧倒的な技術力格差にも怯むことなく、技量の限りと死力を尽くして戦い抜いたのである。そしてそれが、予想以上に多数且つ深刻なガミラス艦艇の損傷に繋がっていた。
 とはいえ、ガミラス側に豊富な予備戦力があれば、更なる攻勢も十分に可能な状況であり、事実、現地軍指揮官――第七五七空間機甲旅団長バルケ・シュルツ大佐もそれを強く望んでいた。しかし、彼の部隊は、その後数ヶ月間にも渡って望まぬインターバルを強いられることになる。

 大・小マゼラン銀河に覇を唱える巨大星間国家“大ガミラス”と言えど、天の川銀河オリオン腕辺境のゾル星系――太陽系はあまりに遠すぎた。
 驚くべきことに開戦時、太陽系は直近のガミラス軍基地から五百光年もの距離を隔てており、つまりその戦場は、未だ各地で膨張を続ける大ガミラス帝星が長く長く伸ばした腕――その最先端だったのである。
 かの地で維持可能な兵站能力では、十隻単位の小艦隊を限定的に展開するのが精一杯であり、天王星沖海戦に投入された五十隻余のガミラス艦艇も、一年以上をかけた綿密な計画に基づき整備、集積された戦力であった(開戦にあたり、先制の第一撃を放ったのは地球側であったが、ガミラスがその誘発を企図していたことは、こうしたガミラス側の戦備準備からも読み取れる)。
 当然、そうしたピーキーな戦力投入に対し、開戦後の作戦展開において深刻な戦力不足が生じかねないと強い懸念を表明する司令部幕僚も――作戦参謀ヴォル・ヤレトラー少佐を筆頭に――存在した。しかし、敵軍の最も激しい抵抗が予想される緒戦に最大規模の戦力を投入して自軍の損害を最小に留め、健在な戦力を用いて更なる作戦展開を図るという旅団長――シュルツ大佐の強い意向が最後には全てを決した。
 結果的にこの判断は、緒戦において地球側の最精鋭機動戦力を殲滅するという極めて大きな(戦略的価値すら含んだ)戦果を挙げるに至ったものの、自軍もまた予想外の損害と、海戦前から予測されていた貧弱な兵站体制故の継戦能力不足により、更なる攻勢作戦は不可能となってしまったのである。

 もちろん、シュルツ大佐は再三再四に渡り、上級司令部たる銀河方面軍作戦司令部に対し増援と補給状況の改善を求めていた。しかし、司令長官グレムト・ゲール少将の兵站に対する無理解と、旅団及びその構成兵員に対する“偏見”も相まって、それが十分に果たされることはなかった。それどころか、早急な更なる攻勢発起を言い渡される始末だった。
 第七五七空間機甲旅団は、旅団長シュルツ大佐以下全員がガミラスによって保護国化された惑星ザルツ出身者で編成された部隊であり、被征服民族を“劣等種族”と呼んで憚らない当時のガミラス人が有していた度し難い偏見が如実に示された格好だった。
 しかし、優秀な指揮官が常にそうであるように、シュルツ大佐もまた諦めを知らぬ男であった。情勢を無視した攻勢を叫ぶゲール少将に粘り強く具申と要請を繰り返し、遂には幾つかの成果を得るに至る。具体的には――

(1)テロン(地球)攻略は物資・戦力不足故、中・長期戦を前提とする
(2)初期作戦として、ゾル星系(太陽系)外縁部のテロン軍基地を制圧すると共に、プラート(冥王星)に前線基地を設置する
(3)決戦時(旅団要請時)、方面軍司令部直轄戦力の一部を増援として得る

 二等ガミラス人に対する差別意識の強さでは人後に落ちないゲール少将から、これだけの成果を獲得した点だけでも、シュルツ大佐の非凡さが理解できるだろう。彼は、強大な大ガミラス帝星国防軍航宙艦隊の中でも最強の誉れ高いエルク・ドメル中将麾下の第六空間機甲師団で師団長直轄の機甲大隊を任されていた程の男であり、銀河方面軍への転属にあたっての旅団長昇進も、ドメル中将の強い推薦によるものだった。
 “与えられた条件下で最善と忠を尽くす”というドメル中将の薫陶を受けて鍛え上がれた大佐とその幕僚団は、ゲール少将から得た“戦果”を最大限に活かした新たな作戦構想を練り上げていく――。

【冥王星攻防戦】
 天王星沖海戦から四ヶ月後、遂にガミラス軍は攻勢を再開。その最初の矛先は冥王星に向けられた。襲来したガミラス艦隊は損傷艦艇の修理が追いつかず、天王星沖海戦時の半数程度であったが、国連宇宙軍冥王星守備隊――開戦後の増援もままならなかった僅かな数の外惑星防衛艦隊と空間騎兵隊で構成――は僅か二日間で壊滅(降伏)し、冥王星はガミラスの軍門に下った。
 対する地球側は、火星圏に集結していた迎撃艦隊を急ぎ出動させたものの、冥王星への到着はどれほど急いでも三週間の航宙期間が必要だった。
 本来ならば、ガミラスの侵攻目標を的確に予測し、その地に万全の戦力を布陣できるかが防衛戦の成否を決する要諦であったが、ガ軍の侵攻目標を絞り切れなかったこと、初戦の損害があまりにも大きく、戦力の再編を地球近傍で行わなければならなかったこと、更に、積極的な迎撃を行うか否かの基本的な戦略判断が遅れたことが、国連宇宙海軍に極めて大きな戦略的・戦術的劣勢を強いてしまったのである。
 最も重要な戦略判断の遅れの原因はやはり、天王星沖海戦後の国連宇宙軍内部の混乱にあった。戦場での戦死や帰還後の引責や懲罰を含め、あまりに多数の高級指揮官が一どきに失われたことで、宇宙軍全体の指揮統制・決定能力が弱体化し、迎撃するか撤退するかという基本的な戦略判断にすら多大な時間を要してしまったのである。
 当時の状況を考えれば、各外惑星に可能な限りの増援を送りこみ、固守態勢を構築するか、太陽系内の位置関係上、半ば孤立状態にある冥王星及び海王星は放棄、それらの駐留部隊を土星圏若しくは木星圏にまで撤退させるか、地球側に許された実質的な選択肢はその二つしかなかった。だが、国連統合軍及び国連宇宙軍は、そのどちらもを選択することができず、それは結果的に、ガミラス軍に各個撃破の好機を自ら与えたも同然だった。
 単独でガミラス艦隊を迎え撃った冥王星守備隊は、火星からの友軍到着まで持久可能な戦力も、撤退の許可も与えられないまま、短時間で無為に戦力を磨り潰し、迎撃艦隊も万全の防御態勢を敷いたガミラス軍に正面からぶつかる形となったからだ。
 長駆の末、ようやく冥王星宙域に到着した地球の迎撃艦隊は、見事な単縦陣を敷いたガイデロール級及びデストリア級からの徹底した遠距離砲撃によって撃ち竦められてたところを、ケルカピア級とクリピテラ級から成る宙雷戦隊の統制雷撃によってまたしても一方的に叩きのめされた。



 緒戦の砲雷撃戦で三分の一もの戦力を一挙に失い、ほぼ壊乱状態に陥った迎撃艦隊であったが、その中で唯一気を吐いたのが、本戦闘の直前、日本国から国連宇宙海軍に派遣された第一空間護衛隊群(司令:土方竜宙将)であった。
 彼らの前任、開戦時の国連派遣部隊――沖田十三宙将麾下の第二空間護衛隊群――は天王星沖海戦で奮戦空しく壊滅、沖田提督も旗艦艦上で重傷を負っていた。
 根本的な再編成が必要となった二護群に代わり、一護群が新たに国連軍へ派遣されたが、土方提督は冥王星への出撃に際して強硬な反対意見を再三再四に渡り具申していた。曰く――これから行っても間に合わない、と。
 だが、先に述べた通り、当時の国連統合軍及び宇宙海軍司令部は作戦指導能力が極度に低下しており、初戦の大敗北と侵略への恐怖で恐慌状態に陥っていた政治と市民感情が命じるまま、無謀な迎撃作戦を強行してしまうのである。
 そのツケはあまりにも大きく、迎撃艦隊はガイデロール級の強力な砲撃と宙雷戦隊の執拗な波状攻撃によって瞬く間に分断され、指揮系統も崩壊、遂には辛うじて生き乗った艦隊次席指揮官が撤退を決断するに至る。しかしそれは、個々の艦がそれぞれ死に物狂いで逃走する潰走に他ならず、多くの艦が相互支援もままならない中、次々にガミラス艦の餌食となっていった。
 戦力の致命的損失は戦闘時よりも後退時に発生する――この冷徹極まりない戦場の原則は、地球のみならずガミラスにおいても存在しており、事実、ガイデロール級“シュバリエル”に座上したシュルツ大佐は麾下の艦隊に徹底した追撃戦と戦果拡張を命じていた。
 散り散りに分断された地球艦隊は、戦隊規模以下に散開したガミラス軍によって蹴散らされ、すり減らされ、孤立の末に撃破されていった。
 そんな煉獄のような戦況の中、第一空間護衛隊群は数少ない指揮命令系統が維持された艦隊として、迎撃艦隊最後尾に位置していた。彼らは迎撃艦隊の中でも指折りの有力戦力であったが、出撃前に土方提督が行った強硬な――しかし極めて真っ当な――意見具申が祟り、半ば厄介払いとして艦隊後方に残置されていたのである。しかし、結果的にはそれが幸いし、一護群は緒戦の混乱に巻き込まれることなく、戦力と指揮統制を維持していた。
 そして、迎撃艦隊が総崩れとなり、各個に撤退を開始する中で、土方提督はガミラス軍の艦隊運動の変化に気がついた。それまで、二~四隻単位での艦隊運動を徹底してきた敵艦隊が更に散開、単艦での活動を開始していたのである。
 残敵の包囲と掃討を企図した敵は可能な限り広く分散し、得られるだけの戦果を獲得しようとしている――それを確信した土方提督は、遅ればせながら迎撃艦隊次席指揮官から指示されていた撤退命令に対し、以下のように返電した。

 “我、コレヨリ一部戦力ヲ抽出、友軍ノ撤退ヲ援護スル。事後、任意ノ方位へ撤退セントス”

 それはつまり、次席指揮官からの命令を無視すると言っているも同然であり、事実、次席指揮官からは凄まじい勢いで命令に従うよう繰り返し通信が送られていたが、土方提督は全く頓着しなかった。
 既に編成を決めていたのだろう。一護群の中から、自身が座上する旗艦“ヒエイ”を含む四隻の戦艦全てと、更に四隻の巡洋艦を選び出し、他艦には次席指揮官の命令に従って撤退するよう指示した。そして“ヒエイ”のレーダー・モニターで両軍配置を自ら確認すると、攻撃目標を単艦で襲撃運動を繰り返している最寄りのクリピテラ級に決定、全速での急行を命じたのである。

「全艦、砲雷撃戦用意。全艦での統制射撃を実施する。
 射撃管制システムの同調接続を開始せよ」

 元が“鬼竜”によって鍛え上げられた航宙自衛隊でも一二を争う高練度の艦隊であるだけに、提督の命令に遅れをとるような艦は一隻もない。

「全艦、砲雷撃戦準備よし。射撃管制システムの同調接続完了!」



「よし、我が隊は敵艦後方に回り込む。距離三千で全力砲撃開始。
 以後、敵艦の無力化確認まで、射撃を継続。
 戦場は錯綜している。友軍艦艇への誤射に厳重注意せよ」

 ヒエイの艦橋内で航海、砲雷それぞれから復唱の声が上がり、艦が回頭を開始する。単縦陣を敷いた八隻の小艦隊は、土方提督がイメージした通りの見事な軌跡を描いて機動していく。その艦内では既に戦闘準備が完了しており、特に砲雷科は砲撃命令を今か今かと待ち侘びていた。
 土方提督から攻撃目標に指定されたクリピテラ級は、撤退を開始した地球の五隻からなる戦隊を執拗に襲撃中だった。地球艦にはクリピテラ級を規模で数倍も上回る戦艦も含まれていたが、それらが放つ高圧増幅光線砲は悉くガミラス艦の装甲表面で弾かれ、逆にガミラス艦の砲撃や雷撃が命中すれば、殆どの地球艦は大きく速度を落として沈黙するか、轟沈するのが常だった。
 それは最早戦闘というよりも虐殺にも近い状況であったが、それ故に件のクリピテラ級は周囲警戒が疎かになっていた。そんなクリピテラ級へ一護群抽出部隊が最接近を果たしたのは、ガ軍駆逐艦が最早何度目になるか分らない襲撃運動を終え、旋回運動に入った直後のことだった。

「――撃ぇぇぇぇ!!」

 威力不足が否めない高圧増幅光線砲であったが、八隻もの戦艦と巡洋艦の砲撃力を至近から集中させたことで、強固極まりないガミラス艦の装甲も遂に突破された。艦橋と後部ミサイル発射機を破壊されたガ軍駆逐艦は、黒煙を噴き上げながらよろばうように離脱していく。
 地球艦艇がまともな砲撃戦でガミラス艦を撃破したのは、開戦以来これがほぼ初めてのことであり、ヒエイの艦橋内は大きくどよめいた。だが、その快挙を達成した土方提督自身は、一切表情を変えることなく、既に次の標的を見出している。

「砲撃終了。次、攻撃目標ガ艦D-14。第三戦速。周囲警戒を怠るな」

 その後も、土方提督率いる一護群抽出部隊は、独航するガミラス艦を狙った肉薄集中攻撃を行い続け、シュルツ大佐が事態に気がついた時には、四隻ものガ軍艦艇が大きな損傷を受けて脱落を余儀なくされていた。しかもこの時、既に十分な退避時間を稼いだと判断した抽出部隊はガミラス艦隊への攻撃を終了し、他の地球艦艇とは別進路を取って遁走を開始していた。
 その結果、シュルツ大佐は悩ましい選択を突き付けられた。
 つまり――数的には未だ百隻近い数を維持した地球の迎撃艦隊主力を追撃するか、数は十隻にも満たないながら絶妙なタイミングで逆襲を行った小癪な分艦隊を追撃するか、はたまた追撃戦を終了し、損傷艦を護りつつ制圧したばかりの冥王星に引き上げるか―― 既にこの時点で、ガ軍の戦闘航行可能な艦艇は二十隻を大きく割り込んでおり、シュルツ大佐の選択肢は、大佐が逡巡している間にも、刻一刻と狭まりつつあったのである。
 短い熟考の末、シュルツ大佐はより脅威度が高いと判断した分艦隊の追撃を決意、快速のケルカピア級とクリピテラ級を急行させると共に、自艦とデストリア級には損傷艦の救援を命じた。
 その命令は、戦力の保全と戦果の拡張、どちらの点においても中途半端の誹りを受けかねないものであり、大佐自身もそれを自覚していた。しかし、七五七旅団の厳しい補給と補充の状況を考えれば、是非もなかった。
 この最後の追撃戦によって、結果的に一護群抽出部隊は半数以上の艦を失う大損害を受けた。しかし、追撃してきたガミラス艦の数が限られたことに加え、これらの艦の大半が宇宙魚雷を既に射耗していたことが幸いし、全滅だけは免れることができたのである。
 また、迎撃艦隊主力は、一護群抽出部隊の後衛戦闘とガ軍追撃戦力の吸収により、それ以上の損害を受けることなく、火星軌道への撤退を果たしている。

 皮肉なことに、本海戦で第一空間護衛隊群が果たした役割は、自軍よりも寧ろガミラス軍において称賛されることになった。事実、七五七空間機甲旅団が記した本海戦の戦闘詳報には、地球軍の殿(しんがり)を受け持った一護群を取り逃がしたことに対する深い悔恨と共に、同部隊の戦術判断と行動に対して絶賛に近い評価を与えている。
 だが、そうした敵軍内での評とは裏腹に、地球においてはまたしても大敗北を喫した国連宇宙海軍に対する激しい非難が沸き起こっていた。その非難が侵略者に対する恐怖の裏返しであることは明白であったが、それ故に無視することもできなかった。
 結果、迎撃艦隊で生き残った将官の大半は引責辞任と予備役編入を余儀なくされた。それは困難な撤退戦を成功させた土方提督すら例外ではなく、また提督自身も旗艦を含めた多くの艦艇と、その乗員を失った責任を取りたいと辞任を申し出ており、何らかの引責は最早確定事項だった。しかしここで、土方提督に命を救われたと信じる迎撃艦隊の将兵多数――それも国籍、所属軍、階級、性別、年齢にかかわりなく、既に辞任が決定していた迎撃艦隊次席指揮官まで――が提督の慰留を各方面に強く働きかけたことで状況が変わった。
 土方提督の更迭によって全軍の士気が低下することを懸念した国連宇宙海軍と航宙自衛隊上層部は協議の末、提督を第一空間護衛隊群司令職から解任こそしたものの予備役には編入せず、航宙軍士官候補生学校長に就けたのである。



――『第一次火星沖海戦』へつづく――


以前から興味のあった第二次火星沖海戦について、どのような戦いが行われたか考えて欲しいとFGT2199さんからご依頼いただいたのは5月末のことでした。
今思えば、FGTさんはMMD用にざっくりとした簡単な戦いの概要を求めておられたのだと思いますが、そこは激しく空気が読めない私ですので、いきなりガッツリとした文章から書き始めてしまいました(^^;)
流石にそれは冗談(?)としても、第二次火星沖海戦に関する僅かな公式設定を見る限り、おざなりな設定では、とてもまともに戦いを成立させられないだろうなという思いは確かにありました。
結果、地球の状況とガミラスの状況、それぞれをガミラス戦争開戦時にまで遡って考えることにした次第です。
また、丁度本作を書き始める前後に、宇宙戦艦ヤマト二次小説の大家、七猫伍長さんとお話する機会があり、第二次火星沖海戦の戦術展開についてご助言をいただけたことも非常に大きかったですね。
結果、この序章を含めて全体ボリュームはA4で50枚にも達してしまいました(ちなみに本序章はその内の10枚程度です)www

さて、MMD杯ZEROは8月24日~31日に開催されるイベントなので、この期間中にFGT2199さんの手によるMMD動画も公開の予定です。
ただ、あまりにあれこれと盛り込み過ぎたこともあって(^^;)、動画は『第一次火星沖海戦』と『第二次火星沖海戦』の二部に分けての公開となりました。
この内、『第二次火星沖海戦』の公開は、上記MMD杯期間後になると思います。
また、動画公開と同時に、それぞれの原作文章も当ブログで公開していきますので、こちらについても楽しみにしていただけると幸甚です。

最後になりましたが、昨日、宇宙戦艦ヤマト2199、2202で土方竜役を演じられた石塚運昇さんの訃報に接しました。
石塚さんには、土方さん役以外にもカウボーイビバップのジェットや銀英伝のヨブ・トリューニヒト、96時間シリーズのブライアン・ミルズの吹き替えなど、長年に渡り沢山の役で魅了していただきました。
本序章の中にも、土方さんのセリフが幾つもあり、本日の公開にあたって、土方さんの声を思い出しながら、一生懸命何度も書き直しました。
尽きぬ感謝の気持ちと共に、心よりご冥福をお祈り致します。

宇宙戦艦ヤマト2199外伝 第二次火星沖海戦【MMD杯ZERO予告動画】

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