Quantcast
Channel: 我が家の地球防衛艦隊
Viewing all articles
Browse latest Browse all 276

ゼルグートの系譜(ゼルグート級航宙戦闘艦 その2)

$
0
0


 大ガミラス帝星末期における最強艦艇の一つ、ゼルグート級航宙戦闘艦は全長700メートルを超える巨躯とそれに見合う攻防性能、ガミラス航宙艦隊全軍を管制可能な指揮統制能力、更には艦の機能中枢を分離可能という複雑な構造も相まって非常に高価な艦であり、大ガミラスにおいても希少種に分類されている。
 実際、初期の建造数は僅か三隻に過ぎず、しかもその内の二隻は帝国総統及び国家元帥の座上艦とされていたのだから、その希少性・特殊性は論を待たない。
 しかし、そんなゼルグート級を取り巻く環境はデスラー紀元103年に激変してしまう。
 ガミラス帝星より遥か16万8千光年彼方の天の川銀河辺境に位置するゾル星系第三惑星「テロン」。当時、未だ惑星単位の統一政体すら確立していなかった“後進国”との局地紛争を契機に、あれほど強大に思われたアベルト・デスラー帝国総統を頂点とする大ガミラスの国家体制が突如として崩壊、総統アベルトも行方不明となってしまったのである。そして、この間の一連の戦闘と混乱の中で、三隻のゼルグート級も全艦が喪われてしまう。
 以降のガミラス帝国は、これまでのイスカンダル主義に基づく強引な膨張政策の反動や、行方不明となる前に総統アベルトがバレラス軌道上で見せた乱心に対する驚愕もあり、激しい混乱期・停滞期に突入した(帝星議会の全会一致で総統位を剥奪されたアベルト・デスラーの“真意”が明らかになるには、更に四年の歳月を待たねばならない)。
 アベルト無き後のガミラスを考えると、国家的カリスマ足り得る新総統を新たに選出するか、総統を頂点とする現在の国家体制そのものを大掛かりに変更するか、どちらかの処方が必須と考えられた。だが、奇妙なことにアベルト消息不明以降も総統位は空位のまま廃止もされず、“帝国/帝星”の国家呼称も存続した。
 これは、当時の副総統兼内務省長官レドフ・ヒスが帝国内に存続する貴族階級の権威的協力を取り付けるための深謀遠慮だったとする説が根強い。つまり、継承順位序列第一位であるヒスが次期総統就任を辞退しつつ、しかし総統位はあえて残すことで、有力貴族たちに「次期総統」という名の“夢”を見せ、それをエサに国家維持の協力を取り付けたという訳だ。

 こうして、体制はともかく帝国自体の崩壊は辛うじて食い止められたものの、実際問題として当時の帝国に特殊で高価なゼルグート級を増備する必要性はそれほど高くなかった。通常、一戦場に投入される戦力単位としては千隻程度が最大であったし、この場合、艦隊は百隻単位の分艦隊複数で構成されることになる。その程度の規模であれば、比較的近年就役を開始したハイゼラード級航宙戦艦や近代改装後のガイデロール級の指揮統制能力で十分に旗艦任務に堪えたからだ。
 この点、ゼルグート級航宙戦闘艦は強大なガミラス帝国航宙艦隊においてすら性能的に持て余すほどのハイスペックと、ある種の象徴性を重視して建造・配備された艦だったと言えるだろう。
 だが、当初は軍内部でも増備の必要なしという判断が大勢を占めたゼルグート級であったが、最終的には二隻の追加建造が決定した。
 未だ一万隻近い規模を誇る航宙艦隊総旗艦用の四番艦と、新たに安全保障条約を締結した惑星国家テロンに派遣される全権大使用の五番艦である。いずれもガミラス歴(デスラー紀元に代わり制定)1003年に就役している。
 航宙艦隊旗艦用は、実質的には総司令官ガル・ディッツ提督専用艦であった。提督は政治とは常に距離を置く武人肌の軍人として知られ、非貴族階級の将兵たちからも「オヤジ」と慕われるガミラス帝国軍では珍しいタイプの将帥である。
 総統空位後、帝国軍内部では、あくまでアベルト・デスラーに忠誠を誓う一派や、この機に乗じて勢力の拡大を図ろうとする帝国貴族、植民地化された母星を独立させようとする二等ガミラス人部隊などが跳梁し、統制が大きく乱れた。この混乱に対しディッツ提督は、自らの人望と直卒戦力の緊急派兵などの果断な行動で帝国軍全体を短期間で掌握、帝国内独立勢力の鎮静化にも大きな役割を果たした。
 こうした点をヒス副総統や文官出身の各省長官たちは高く評価しており、帝国の新体制が再び盤石となるまでディッツ提督を絶対に失ってはならないとして、最も生存性の高い専用艦を整備することが決定したのである。この際、専用艦の建造を最も強く推したのが開発振興省(旧支配統治省)長官であったことが、当時の帝国の状況を如実に示していると言えるだろう。
 とはいえ、専用艦配備以降も帝国上層部はディッツ提督が前線に出ることに難色を示し続け、提督が専用艦を積極的に用いるようになるのは、帝国とアベルト・デスラー前総統との和解が成立した後となった。

 航宙艦隊総旗艦用の四番艦はともかく、辺境の小国に過ぎないテロン大使用にゼルグート級五番艦が充てられたことは発表当時、大きな驚きをもって迎えられた。しかし、テロンが独自開発したゲシュ=ダールバム(テロン呼称“波動砲”)と「時間断層」の存在を知る帝国上層部にとっては意外でも何でもなかった。それどころか、イスカンダル王国からの技術供与を受けて一気に星間国家へと飛躍したこの小国との関係性が、今後の天の川銀河内ガミラス領域の命運を握るとまで考えられていた。
 様々な経済的・軍事的施策を打っても尚、アベルト・デスラー消息不明後の混乱から脱し切れない当時のガミラス帝国は、大・小マゼラン領域の維持にリソースの大半を費やさざるを得ず、天の川銀河へのパワープロジェクションは今後縮小の一途を辿るのは確定事項だった。そのような状況の中で、未だ人口や領域規模は極めて限られるものの、惑星破壊すら可能な戦略砲を大量配備し得るポテンシャルを有するテロンは、天の川銀河における得難い“番犬”としての価値を持つと理解されていたのである。しかし、扱いを誤れば飼い主にすら牙を剥きかねないのが番犬という存在である以上、常に飼い主の存在を意識させる“重石”も不可欠と考えられた。それが、大ガミラス最強艦の一角、ゼルグート級派遣の意味であった。
 実のところ、既にゲシュ=ダールバムを実用化しているテロンに対しゼルグート級が重石足りえるのかという実際的懸念もあり、一時はデウスーラⅡ級の艦級名を変更した上で追加建造するというプランも存在したが、イスカンダル王国との関係性(当時のバレラスにはユリーシャ第三皇女が長期行啓されていた)を考慮して本プランは中止されている。



 こうして追加建造された二隻のゼルグート級は、先行して建造された三隻と区別する際は「後期型」とも称されるが、前期型三隻との間に仕様的・性能的な差異はない。三番艦「ドメラーズⅢ」に七色星団海戦前に急遽仮設された物質転送機の設置も見合されている。
 物質転送機の使用にはゲシュタム機関の過負荷稼働が必要であり、転送機を連続使用することで機関出力が大きく低下してしまうことが七色星団海戦の戦訓として明らかになっていたからである。機関出力の低下はゲシュタム機関搭載艦艇にとって攻防走性能の低下そのものを意味し、七色星団海戦の最終局面における砲雷撃戦の結果にも重大な影響を及ぼしたとされている。
 純技術的な問題から物質転送機の設置こそ断念されたものの、それでも本級の攻防性能は折り紙つきであり、五番艦「バンクレイブⅣ」は“滅びの方舟”を押し立てたガトランティス帝国本国軍のテロン襲来の際、在テロン・ガミラス軍旗艦として参戦。テロン近傍にて繰り広げられた一連の戦闘で、「バンクレイブⅣ」は自爆兵器「イーターⅠ」を含む多数の被弾を被りつつも終戦まで戦い抜き、座上していたローレン・バレル全権特命大使も無事生還を果たしている。
 また、四番艦「デルツムントⅧ」もディッツ提督と共に解放直後のガルマン星防備の任に就き、その後、三次に渡ったボラー連邦艦隊による反攻作戦を全て頓挫に追い込んでいる。
 いずれの戦いも、侵攻してきたボラー艦隊の規模はガミラス守備艦隊の数倍であったが、ガミラス艦隊はアベルト・デスラー統治下で連綿と磨き上げられた艦隊機動戦術を駆使して数に勝るボラー艦隊を徹底的に翻弄、撤退時のボラー艦隊の損耗率は実に70%に達したとされる。
 この戦果は、ゼルグート級の個艦戦闘能力というよりも、ディッツ提督とその部下たちの非凡な戦術能力に負うところが大であったが、その実現にあたり旗艦である「デルツムントⅧ」の指揮統制能力が大きな効果を発揮したことは言うまでもない。
 第一次アベルト・デスラー治世から第二次治世に至るまでの間、ゼルグート級は僅か二隻だけの存在ながら十分な働きと存在感を示し、本級のポテンシャルの高さを改めて証明した。



 しかしその一方で、ゼルグート級には全く異なる印象を放つ“亜種”が存在する。テロンの時間断層内で大量建造された「準ゼルグート級航宙突入艦」である。
 この艦の実現には、ガトランティス帝国と先述したテロンとの同盟締結が大きく関わっている。
 シャンブロウ沖海戦及びそれに先立つマゼラン外縁部での遭遇戦においてガトランティス軍が使用した「火焔直撃砲」はガミラス帝国軍に大きすぎる衝撃をもたらした。戦力規模はともかく、科学力では遥かに劣る“蛮族”と捉えていたガトランティス軍から完全なアウトレンジ攻撃を決められ、実質二個艦隊が壊滅した――しかも壊滅した艦隊にはゼルグート級一番艦も含まれていた――という事実はガミラス軍にとってそれほどの重みがあったのである。
 しかし、火焔直撃砲の技術的核心はガミラス人科学奴隷がもたらしたガ式物質転送機であると早期に判明した為、対抗策は比較的に容易に編み出された。物質転送機の発する転送波により形成されるワームホール(ゲシュタムの穴)に対し、強力な逆位相波を指向放出することでワームホールを中和・消失させるという対抗兵器である。
 この逆位相発振器を火焔直撃砲のゼロ距離射撃にも抗堪し得る重装甲の防御壁に組み込んだ新兵器は「ガミラス臣民の壁」と命名され、火焔直撃砲に対するガミラス軍の切り札として大いに期待された。
 しかし、開発と実戦投入が急がれた兵器だけに問題もあった。
 一つは、火焔直撃砲の直撃に耐える重装甲の入手性。火焔直撃砲はゼルグート級の正面装甲すら射貫可能な熱エネルギー兵器であり、テロン艦自慢のゲシュタム・ウォールですら直撃には耐えられないとされていた。当初、短期間での装甲材あるいは防御構造の開発は不可能と考えられたが、意外にも解決策は安保条約を締結したばかりのテロンからもたらされた。
 ゾル星系第六惑星ゼダンの衛星で産出する希少鉱物を用いることで、極めて耐熱・耐衝撃効果の高い特殊合金を得ることができるという技術提案であった(テロンでは、本合金を自国産ゲシュタム機関の一部に使用していた)。
 この合金を用いた「壁」は強度的には申し分のない性能を有したものの、問題はやはりその入手性であった。唯一の原料産出地が天の川銀河辺境のゾル星系とあっては(しかも産出量も限られた)、帝国各地の工廠で同時に大量生産するのは現実的に不可能であったからだ。
 それだけでも、帝国各地でガトランティス軍との交戦が相次いでいるガミラス軍にとって大問題であったが、更に大きな問題があった。
 一先ず完成とされた「壁」であったが、その起動に必要なエネルギー量は計画値よりも遥かに大きく、「壁」内に設置可能なジェネレーターに加えて外部からのエネルギー供給――それも、ゼルグート・クラスの大型ゲシュタム機関からのエネルギー供給――と座標保持のための慣性制御が不可欠だったのである。
 時にガミラス歴1002年。当時は後期型ゼルグート級二隻のいずれもが建造中という状況であり、追加建造の予定も皆無であったから、せっかくの対抗兵器も「実際には使えない兵器」という烙印を押されてしまう。もちろん、より小出力で使用可能な「壁」の開発・改良も引き続き進められてはいたが、短期間で画期的成果を出すことも現実的に難しかった。
 だが、ガトランティス帝国軍との交戦も、メダルーサ級による損害も拡大の一途を辿っている状況から、帝国政府と帝国軍は一つの大きな決断を下す。
 テロンから権利譲渡を受けた時間断層工廠ガミラス管理区画での、ガミラス臣民の壁及び「簡易構造型ゼルグート級」の急速量産建造である。
 本級は外観や全長、搭載機関の出力こそゼルグート級と同一であったが、艦内構造はもちろん、用いられている装甲や船殻構造材、艤装品は量産性を優先したダウングレードと簡易化が徹底的に行われており、建造コスト・工数はオリジナルの実に30%にまで低減されている。
 この簡易型ゼルグート級は「準ゼルグート級航宙突入艦」と新たに命名され、ガトランティス戦争末期にガミラス臣民の壁と共にテロン戦線に大量投入された。
 当初は対・火焔直撃砲兵器としての配備であったが、そのワームホール中和能力が出力強化により艦艇のゲシュタムジャンプすら阻害可能であることが注目され、結果的に白色彗星やガトランティス遊動艦隊のジャンプ封じに多数が用いられた。その点、準ゼルグート級とガミラス臣民の盾は、ガミラス/テロン連合軍の遅滞防御戦術の成立に決定的な役割を果たしたと言えるだろう。
 だが、そうした役割故に、準ゼルグート級は「壁」と共にガトランティス帝国軍からは最優先攻撃目標とされ、多くの喪失艦を出している。
 本級については簡易構造故の直接防御力の低下や乗員数低減によるダメージコントロール能力の不足といったマイナスの側面が指摘されることが多いが、700メートルを超える巨躯そのものと、簡易化によって生じた余剰空間を一種のスペースドアーマーとすることで、実戦における本級は意外なほどの打たれ強さを発揮した。しかしそれでも尚、ガトランティス帝国軍の圧倒的物量と狂信的なまでの攻撃密度には抗し切れず、時間断層工廠ガミラス管理区画で建造された準ゼルグート級の実に九割がガトランティス戦役中に喪われている。
 尚、配備当初は様々な問題点があったガミラス臣民の壁も、その後の改良作業を時間断層内に設置された開発AIに引き継いだことで短期間の内に性能が大幅に向上した。エネルギー効率が改善された改良型の“壁”は、ケルカピア級二隻程度からのエネルギー供給でも十分に稼働可能であり、機関出力に余裕のあるゼルグート級であれば、最大十枚を同時稼働させることすら可能となった。
 だが、ガトランティス戦役後のテロン政府による時間断層の放棄決定と、戦役によってゾル星系第六惑星ゼダンが大きなダメージを受け、衛星での鉱物資源採掘が事実上不可能となってしまったために、現在「壁」の建造は完全に停止している。

 多数が建造された準ゼルグート級は、ガトランティス戦役末期の混乱の影響もあり、ガミラス帝国内の叛乱勢力に強奪された艦や、当時は非合法化していたアベルト・デスラー派に横流しに近い形で譲渡された艦も複数存在する。しかし、そのサイズと各部の簡易化故に維持運用に多くの労力とコストを要する上に、本級の最大の存在理由であった「ガミラス臣民の壁」が改良によってケルカピア級二隻程度からのエネルギー供給でも稼働可能になった事、「壁」自体の残存数が極めて少なく、今後の補充も目処が立たないことから、ガトランティス戦役後、準ゼルグート級の戦力価値は大きく低下した。
 このため、デスラー派が合流した後のガミラス軍においても遠くない将来全艦が退役すると予想されているが、本級をベースとした改装艦や発展型艦艇の計画が存在するとも一部では噂されている。



皆さま、お久しぶりです。
何やら急に思い立ちまして、ゼルグート級についての小咄を書いてしまいました。
あくまで宇宙戦艦ヤマト2199、2202、2205を観終えた上での自分なりの解釈でして、内容の妥当性についての確信は皆無です(笑)
ただ、2202第一章公開当時から抱えていたゼルグート級に対するモヤモヤした気持ちをようやく整理できた想いです。

2199では最新鋭艦であり僅か3隻だけの存在と説明されていたゼルグート級が、2202では冒頭から多数登場し、「旧式」とかバックネット裏から「初期型」とか説明されたことにとても残念な気持ちを覚えました。
大好きな艦だっただけに、「乱用」とか「雑に扱われた」みたいな感情的反発もあったと思います。
今回の小咄においては、ゼルグート級の中でサブタイプを作ることで、2199に登場したゼルグートと2202以降のゼルグートを差別化しています――が、2202登場艦を極端に卑下するようなこともしていないと思います(笑)
あくまで、当時の星間情勢上、ゼルグートの形をした艦がワラワラと登場するとすれば、それがどのような艦になるのかを突き詰めた結果です(さすがに文中に書いたくらいのコストダウンは難しいと思いますが、逆に短期間に大量建造された量産効果で実現できた――と大目に見てやって下さい)

私の中の「ゼルグート級は特別」「ガミラス最強艦の一角」という想いが強すぎる文章となりましたが、生易しく見守っていただければと思います。
尚、ゼルグート級については2199完結直後にも設定妄想を書いています。
2205どころか2202の公開前のものであり、今読み返すと笑ってしまうところも多いですが、この機会に目を通していただけましたらありがたいです。

では、またいつかどこかでお会いしましょう。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 276

Trending Articles