(注)本設定は『宇宙戦艦ヤマト2199』世界の未来に登場する(かもしれない)“アンドロメダ”を妄想したものです。
未だ公式作品化されていない時代のことですので、オリジナル設定を多く含んでいます。
尚、本設定の世界観は、当ブログで過去に公開しました『主力戦艦(ボロディノ型宇宙戦艦)』と共通しています。
特に地球が独自に製造した波動コア(テラジウム・コア)や波動砲に代わる決戦兵器(拡散衝撃砲)の開発経緯等については、そちらで先に御確認いただくことをお勧めします。
2211年に就役した地球圏最大最強の宇宙戦艦。
本型の建造がヤマト型宇宙戦艦を強く意識したものであったことは、計画時の艦政本部内呼称が『“超ヤマト型”宇宙戦艦』であったことからも明らかだ。
前人未到の往復三〇万光年を遥かに超える大航宙を成功させ、文字通り地球と全人類を救う活躍を示したヤマト型一番艦『ヤマト』――しかし意外にも、ヤマト計画本部において設計業務を担当した艦政本部員達にとっては、決して満足し得る艦ではなかった。純技術的観点で言えば、ヤマト型の実態は建造途中の武装移民調査船に無理やり次元波動エンジン搭載改装を施した艦であったからだ。
もちろん、改装にあたっては当時の地球で望みうる最先端技術と資材、頭脳が惜しげもなく投入され、就役した艦は十二分な完成度を有していたが、それでもオリジナルの艦の規模や許容された建造期間、入手可能資源の限界から諦めなければならない仕様・性能も少なくなかった。艦の設計に責任を持つ艦政本部員にしてみれば、次元波動エンジンの搭載を前提に新たな艦を設計した方がより優れた艦が実現できるのは自明であっても、当時の地球の物的・時間的ファクターがそうした理想論を許容しなかったのである。
それは『技術者たる者、到達可能な最高度を追求すべし』という技術者としての矜持に反するものであったが、人類滅亡という究極的危機状態においては否応もなかった。加えて、彼らにとっては妥協の産物でしかない筈のヤマトが達成した成果があまりに偉大であったことも、ガミラス戦役後、彼らの“超ヤマト型”に対する欲求と渇望を歪な形で強めてしまったと言えるのかもしれない。
彼らに与えられた“超ヤマト型”実現の最初のチャンスは、ガミラス戦役後初の次元波動エンジン搭載戦艦である『ボロディノ型宇宙戦艦』計画時だった。この際、彼らは戦役中から予備検討を進めていた400メートル超級大型宇宙戦艦案を満を持して提示し、国連統合軍の軍政を司る『軍務総局』からも強い支持を得た。軍務総局はガミラス戦役後の地球軍事力を象徴する“ポスト・ヤマト”をかねてより欲しており、奇しくも艦政本部の一部が提唱する“超ヤマト型”と思惑が一致したのである。
当時、六大州及び各行政管区の軍務局を束ねる軍務総局の長には、極東管区軍務局出身の芹沢虎鉄が就き、戦役中に発言権と実務権限を著しく増した軍令部門(実戦部隊)に対して巻き返しを図っていたが、ヤマトを筆頭に実戦部隊が成し遂げた戦果とそれに対する市井からの支持と信頼は圧倒的で、巻き返しは容易ではなかった。
軍政部門の復権には、実戦部隊を手なずけられるだけの高価な“オモチャ”と、あまりに偉大なヤマトを一挙に過去の記憶にまで押しやれるだけの圧倒的存在が必要というのが軍務総局の判断であり、更に芹沢総局長個人について言えば、ガミラス戦役のきっかけとなったガミラス探査艦隊への先制攻撃指示に係る黒い噂が常につきまとう自らに対し、地球帰投直前に病没したヤマト艦長 沖田十三の一輝かしい功績への対抗心が動機の多くを占めていたと言われることも多い。
だが、こうした艦政本部の一部と軍務総局の奇妙な共闘関係も結局は実を結ぶことはなかった。当時の国連宇宙海軍の戦力整備方針は、まずもって太陽系防衛に足る『最低数量』の確保であり、個艦性能の重視は二の次、三の次でしかなかったからだ。その結果、『ボロディノ型宇宙戦艦』にはより量産性と調達性に優れる260メートル級設計案が採用されることになるのである。
それは“超ヤマト型”推進論者にとっては新たな失意の結果であったが、実際問題として、ボロディノ型が計画された2202年頃の地球の状況では、400メートルを超える巨艦を多数調達・整備することは財政的にもインフラ的にも非現実的であり、推進派が“地球の現状も理解できない時代錯誤の対艦巨砲主義者”と揶揄され、白眼視されるのも無理はなかった。更に言えば、仮にボロディノ型が400メートル級宇宙戦艦として建造されていたとしても、結局は“超ヤマト型”推進論者の満足する艦には到底なり得なかったことも確実だった。なぜなら、ボロディノ型が使用できたのは地球製波動コア『テラジウム・コア』のみであり、本コアの次元還元効率がイスカンダル純正の波動コア『イスカンダリウム・コア』に対して決定的に劣る以上、性能面でヤマトを超えることは絶対に不可能だったからだ。
後の技術検証で、テラジウム・コア実装艦にヤマト並みの戦闘力を持たせるには、コア複数をクラスター化した超大型波動エンジンが必要であり、艦のサイズは最低でも700メートルを超えると判定されている。尚、コアをクラスター化(複列化)することで大出力を得るというアイデアは、ガミラス帝星での戦闘において救出されたヤマト船務長の証言から得られたものであった。
結果的にボロディノ型検討において“超ヤマト型”は不採用にはなったものの、検討を通じて“超ヤマト型”を現実の存在とする為に必要な前提条件が改めて整理されたこと、過去に例をみない大型戦艦設計における基礎が固められたこと、そして何よりイスカンダリウム・コアが必要不可欠であることが改めて理解されたことが、後のアンドロメダ型建造時にも大きな役割を果たすことになるのである。
“超ヤマト型宇宙戦艦”の実現には、その存在を成立・維持するに足る経済力と社会資本に加え、何よりイスカンダル製波動コアが不可欠――それがボロディノ型計画時に再認識された冷徹な事実であった。経済力やインフラについてはガミラス戦役以降、地球の着実な復興により遠からず解決されるであろうことが確実視されていたが、イスカンダル製波動コアの扱いは極めて政治性が強く、解決の目処はおろか、糸口すら見出せない状況が続いた。
なぜなら、当時の地球が保有するイスカンダル製コアは、イスカンダル王国第一皇女“サーシャ・イスカンダル”によって地球にもたらされ、そのままヤマトに実装されたコア(コア1)と、ビーメラ星系第四惑星から回収されたコア(コア2)の、僅か二基のみであったからだ。
この内コア1は、未だ地球環境回復プロジェクト用特務艦としてコスモ・リバースシステムを稼働させ続けているヤマトが実質的に独占(プロジェクト完了はどれ程早くても2225年とされていた)していたから、運用の自由が確保されているのは唯一“コア2”のみであった。当然、実質的には唯一無二の存在である“コア2”の使用権限は高度な政治性を帯びており、軍の一担当部局程度で運用を決定できるような存在ではなかったのである。
つまり、“コア2”の積極使用には何らかの政治的決断が必要であったが、その機会はガミラス戦役休戦から5年を経てようやく訪れることになる。有史以来初となる全地球規模の統一政体――『地球連邦』――の発足決定だ。
2206年から予備的活動を開始した地球連邦仮政府は、2211年の正式発足にあたり、全地球市民に新時代の幕開けと未来の安寧を確信させる『象徴』を強く欲しており、その『象徴』として予てより計画が浮上しては消えていた“超ヤマト型宇宙戦艦”に白羽の矢が立てられたのである。こうした政治環境の変化に艦政本部と軍務総局の“超ヤマト型”推進論者たちは直ちに呼応、僅かな期間で計画を整えていった。
当時、国連宇宙海軍(後の地球防衛軍地球防衛艦隊)は第二次補充計画(2204~2206)をほぼ予定通り完遂し、太陽系を防衛するに足ると判断される戦力が最低限ながらもようやく充足されつつあった。2206年時点で、続く第三次補充計画(2207~2209)の内容もほぼ固まっていたが、急遽本計画の予備費枠が拡大され、“超ヤマト型”の設計検討と建造資源調達予算が織り込まれた。全ては“超ヤマト型”の完成と就役を2211年の地球連邦政府発足式典に間に合わせる為で、こうした予算上の特例措置により2207年から実質的な建艦作業が開始されたことで、本型は辛うじて2211年度初頭の就役が可能となった。但し、地球の戦闘艦艇としては初めて400メートルを超えた巨大戦闘艦を詳細設計開始から僅か四年で就役に至らしめるのは決して容易ではなく、実際の設計・調達・建造作業は突貫に次ぐ突貫であった。
また、本型の一番艦、二番艦の建造を担当したのは当時最も高い宇宙艦艇建造能力を持つとされたノースロップ・グラマン社のニューポート・ニューズ造船所及び三菱重工業 長崎造船所(ヤマト建造を担当した坊ノ岬沖特設ドックは、長崎造船所の工場疎開時に設置された分工場である)であったが、それでも400メートル級の巨艦建造にはドックサイズが不足しており、建造に先立ち大規模なドック拡張工事が実施されている。また、両造船所は技術レヴェルの高さ故に対抗心も旺盛であり、それぞれの艤装委員長も巻き込んで競い合うように艤装改正を行った。その結果、完成した一番艦、二番艦は細部においてはかなりの相違点を有していたという。
“超ヤマト型宇宙戦艦”が“アンドロメダ型宇宙戦艦”と正式に命名され、一番艦『アンドロメダ』二番艦『ギャラクシー』が就役したのは、地球連邦政府の発足式典が開催された2211年1月1日のことであった。命名式は式典内の一イベントとして執り行われ、会場上空を低空でフライパスしたネームシップ『アンドロメダ』の雄姿が式典に華を添えた。ヤマトをも遥かに上回る巨艦でありながら優美且つ未来的な艦影は、招待客や各種中継で式典を視聴していた地球市民たちに、新時代の到来を実感させるに十分なインパクトを持っていたとされ、その点で言えば、アンドロメダ型の建造目的の一つはこの時点で完全に達成されたと言っても過言ではないだろう。
アンドロメダ型の建造隻数は2210年度予算で二隻『アンドロメダ』『ギャラクシー』、更に次年度予算で一隻(艦名未定)の建造が予定されていた(もちろんアンドロメダとギャラクシーの予算承認は名分的なものである)。
当初は、2211年度に就役するアンドロメダ型は三隻が要求されていたが、予算上の問題に加えて本型を建造可能な設備の不足から、大きく二期に分けた調達が図られたのである(2211年に予算承認された三番艦の就役は2214年度とされていた)。アンドロメダ型を建造・補修可能なドックはニューポート・ニューズと長崎のみであり、アンドロメダとギャラクシーの建造完了後、ニューポートではアンドロメダ型三番艦の新造、長崎は就役済み二隻の補修整備を担当することになった。
よく知られている通り、本型の三隻という建造隻数は地球が有するイスカンダル製波動コアの数量から決定されたものであった。
地球が運用の自由を確保していたイスカンダル製波動コアは“コア2”ただ一基のみ。それにも係らず三隻ものアンドロメダ型建造が企図されたのは、いかなる状況においても常時一隻のアンドロメダ型を実戦配備状態に置きたいという国連統合軍(後の地球防衛軍)の強い希望によるもので、三隻のアンドロメダ型とその固有の乗員は『配備』『整備(休養)』『即時待機』という三サイクルのローテーションによる運用が企図されていた(もちろん“コア2”は『配備』状態のアンドロメダ型に支給されることになる)
更に、ガミラス戦役のような国家危急の折には、緊急措置としてヤマトから“コア1”を譲り受け、『即時待機』状態のアンドロメダ型を『配備』状態に持ち込むことすら計画されており、この場合、二隻のアンドロメダ型を同時に実戦配備状態に置くことが可能であった。但し、この措置は未だ稼働状態のヤマトのコスモ・リバースシステムを強制停止することと同意であり、危機終息後、波動コアをヤマトに再装着したとしてもコスモ・リバースを再稼働できるのかという点に強い懸念があった。しかし、人類の存亡に係る非常時には地球環境の再生よりも人類の存続を優先するという政府方針が改めて示され、地球連邦政府大統領権限でのみ実行可能な非常措置として法制化が行われたのである。
政府と軍がこれほどまでにアンドロメダ型の配備数に固執したのは、ひとえに同型の有する圧倒的な戦闘能力に原因があった。各種シミュレーションで確認されたそれは、当時の地球防衛艦隊の決戦戦力(機動戦略予備)である第一及び第三艦隊すら単独で撃破可能と判定されるほどであったからだ。
当時の第一・第三艦隊はいずれもボロディノ型宇宙戦艦八隻、アルジェ型宇宙巡洋艦八隻を主力とした所謂“八八艦隊(エイト・エイト・フリート)”編成を採っており、通常編成の艦隊の数倍の戦闘能力を有するばかりか、『メ号作戦』時に臨時増強された大ガミラス帝国軍 太陽系派遣艦隊の全盛期戦力ですら撃破可能と評された空間打撃部隊であった。しかし、それほどの戦闘実力を以ってしても、アンドロメダ型には抗し得ないという判定が下されたのである。
更にシミュレーション検討においては、アンドロメダ型とヤマト型の戦闘能力の比較も行われており、アンドロメダ型を撃破するにはヤマト型ですら(現実的には有り得ない想定だが)四隻以上が必要という結論が導き出されていた。
つまり、アンドロメダ型の戦闘能力は地球の宇宙軍事力を一〇パーセント単位で変動させるほどの影響力を有し、ありていに言えば、その不在は決戦戦力の半減に他ならなかったのである。その点、たとえ建造・維持コストが破格であっても、アンドロメダ型の三隻建造は費用対効果的には十分に理に適った行為である――そう計画推進者たちは主張していた。
こうした、圧倒的という言葉ですら不足するアンドロメダ型の性能が、本型とヤマト型以外の次元波動エンジン搭載艦が装備する地球製波動コア(テラジウム・コア)より遥かに高い次元還元効率を誇るイスカンダル製波動コア(イスカンダリウム・コア)に起因していることは言うまでもないが、その性能は前述した通り同一コアを使用するヤマト型をも大きく凌駕している。
ヤマト型との性能差異は、艦体サイズの大型化と周辺補機類の小型化成功により、機関規模がヤマト型の実に二倍にまで達したこと、ヤマトでは重視された移民探査艦的要素(汎用艦的要素)を極力切り詰め、戦闘艦としての仕様・装備に特化したことが主たる要因として挙げられる。
建造途中の武装移民探査船にイ式次元波動エンジンを急造的に搭載したヤマト型に対し、アンドロメダ型は設計段階から同機関の搭載を前提とした純然たる戦闘艦であり、その仕様・装備は全て対艦戦闘に特化していた。こうした(多目的艦としての汎用性を極めたヤマト型とは対照的な)戦闘艦としての徹底は、前型であるボロディノ型宇宙戦艦も同様であったが、多くの困難を伴ったボロディノ型の建造及び運用実績が反映された結果、アンドロメダ型の完成度は就役当時から非常に高かった。
これらの要素に加え、ボロディノ型において初めて試みられた『タキオン粒子発振増幅制御装置』の強化も、ヤマト型との性能差異を一層拡大する上で大きな役割を果たしている。
現在では単に『増幅装置』と呼ばれることも多い本装置の強化原理は比較的単純で、次元還元反応の発生に不可欠な触媒であるタキオン粒子を常用時よりも遥かに高い濃度で波動炉心に供給することで、通常では達成不可能な大エネルギーを得ようというものであった。
宇宙エネルギーとも称されるタキオン粒子は、宇宙空間はもちろん惑星上にも広く分布しており、次元波動エンジン搭載艦船はタキオン粒子を常時捕集しつつ、それを波動炉心へ供給することで次元還元反応を発生させている。
炉心へのタキオン粒子供給は、その濃度が次元還元反応により発生可能なエネルギー量と機関への付随負荷(圧力や熱量)に大きく影響し、供給濃度が低過ぎれば機関規模に対して発生エネルギー量は著しく過小となるし、逆に濃度が高すぎれば、発生エネルギー量に見合わないほど機関に対する負荷が増し、それに対応した重厚で頑丈な(つまりは高価で生産性も劣悪な)機関を用意しなければならなくなる。
当然、『最適濃度』と呼ばれる費用対効果的にベストな機関規模とタキオン粒子供給濃度の組み合わせが存在し、いかなる銀河列強においても(いや、膨大な数の艦船を有する巨大な星間国家だからこそ)純然たる経済的理由から、この『最適濃度』が広く適用されているのである。
勿論、地球もその例外ではなく、ボロディノ型以前の各種艦船に採用されたタキオン粒子供給濃度もこの『最適濃度』だった。供給濃度を更に高め、高コストと低生産性に目をつぶれば、より高性能の艦が実現可能であることも判明していたが、ガミラス戦役終結後の復興と再建に狂奔する地球に必要なのは、まずもって“数”であり、生産性や調達コストに見合わない過剰性能など絶対に許容されなかったからだ。
しかしそうした、経済原則を重視した健全な建艦方針は、次元波動エンジン搭載艦としては初の『生まれながらの戦艦』であるボロディノ型が、260メートル級の小身でありながら列強各国の400メートル級戦艦を凌駕する戦闘能力を求められたことで大きな変化を余儀なくされる。
ボロディノ型は、当時の地球の国力でも大量建造可能な最大規模の艦型が選択されていたが、それでも他国の400メートル級戦艦とは全長サイズで1.5倍、規模にすれば3倍以上の格差があり、常識的に考えて性能上の凌駕は不可能であった。しかし、他国戦艦が長期航宙や多種多様な任務への対応を考慮した“大型汎用艦”的艦艇であったのに対し、ボロディノ型は仕様面において極端なまでの“対艦戦闘艦”への特化を図ることで、純粋な攻防性能に限っては何とかそれらに対抗可能なレヴェルへの到達が可能となった。
だが、ガミラスやガトランティスといった無数の恒星系を有する巨大な星間国家と、弱小且つ新興の単一星系国家にすぎない地球との絶望的なまでの国力差を考えれば、ボロディノ型の戦闘能力は他国戦艦を完全に凌駕する存在でなくてはならならず、このジレンマを解消する為の窮余の策として選択されたのが、高濃度タキオン供給による機関性能の底上げだったのである。
しかし、復興が急速に進みつつあったとはいえ、2200年代初頭の地球の国力では、最適濃度以上のタキオン粒子供給に恒久的に耐久可能な次元波動エンジンの量産は、技術的にも経済的にも非常に困難、現実的には不可能であった。その結果、妥協の産物として、高濃度タキオン供給への耐久は一時的――大規模会戦時などの極めて限定された局面のみ――で良いという決定が下された。
これにより、通常時の艦の運用は最適濃度のタキオン供給で行い、大出力が要求される大規模戦闘等の非常時に限り、高濃度タキオンを供給するという地球独自のシステムが完成をみるのである。
但し、これ程の妥協を図っても尚、その製造コストはタキオン粒子を最適濃度でのみ供給する同規模機関の実に三倍にも達し、更に高濃度供給運転を長時間行った後の機関は各部の消耗から著しく出力が低下する上に、その回復には全消耗部品の交換を含む徹底的なオーバーホールが必要だったことから、生産・運用・維持いずれの面においても財務担当者からすれば悪夢のようなウェポンシステムだった。その為、高濃度タキオン供給――通称『増幅運転』――はデフコン2以上の警戒レヴェルにおいて、所属艦隊司令長官の承認がなければ実施することができないよう強度の制限(システム・プロテクト)がかけられており、このシステムが『最後の手段』であることをいやが上にも際立たせることになる。
このようにコスト上・運用上の制約は非常に大きかったものの、『増幅運転』時の機関性能は通常時の二〇〇%にも達し、決戦時限定とはいえ、その圧倒的な機関出力とそれによって著しく強化される攻防性能は、強大な星間国家との絶望的なまでの戦力格差に怯える地球連邦にとっては、非常に心強いものであった。
当然、地球連邦政府と防衛軍は、当初は以降建造される全ての次元波動エンジン搭載艦艇に本システムの実装を望んだが、やはり製造・維持コストの壁はあまりにも高く、最終的に元々高コストの戦艦級艦艇にのみ導入されることになる。
増幅運転時に使用する高濃度タキオンは、それ単独では可燃性も爆発性も有しない為、外部タンク方式での搭載が可能であった。アンドロメダ型やボロディノ型等、地球における最初期の次元波動エンジン搭載艦は重武装・重防御を追求するあまり、殆ど艦内に余裕のない設計であったから、艦内空間を圧迫しない外部タンク方式は非常に都合が良かった。
ボロディノ型、アンドロメダ型共に、艦体下部に外部タンク二基を装備したが、ボロディノ型のタンク(通称:タキオンタンク)がある程度の防弾性能を有するだけの圧力タンクであったのに対し、アンドロメダ型のそれはタンク単独でもタキオン粒子の捕集が可能な最新型であった。
その差は大きく、ボロディノ型でのタキオンタンクへの充填は、通常時に捕集したタキオン粒子の内、機関へ供給されなかった余剰分でのみ行われる為、一たび増幅運転が開始されれば、後はタンク内の粒子を使い切るまでしか増幅運転を継続することができなかった(加えて、機関そのもの耐久性の点からも長時間の連続増幅運転は困難だった)。これに対し、アンドロメダ型は増幅運転開始後も、タンクがタキオン粒子を独自に捕集し続けることで、より長時間の増幅運転を継続することが可能であり、機関の耐久性もコストと生産性を度外視した構造強化によって十分に確保されていた。
だが、こうした外装式タンクは後のガトランティス戦役にて、被弾による内部漏洩や流失が相次ぎ、システムとしての思わぬ脆弱性を晒すことになる。予定通りのスペックが達成できたのは全戦艦中の半数あまりに過ぎず、その結果、ガトランティス戦役以降、より抗湛性の高い内蔵タンク方式が主流となり、後の更なる技術革新――第二世代次元波動エンジン(スーパーチャージャー搭載次元波動エンジン)――の嚆矢となるのである。
とはいえ、ガトランティス戦役においても、地球戦艦は艦サイズからは想像もできないほどの戦闘能力を突如として発揮するとして、ガトランティス軍にとっては恐怖と驚愕の的であったという。ボロディノ型ですらそうした評価であったから、基本的な戦闘実力ではボロディノ型に十数倍するアンドロメダ型の増幅運転時の戦闘能力は、まさに猛り狂う伝説の巨竜“リヴァイアサン”を彷彿とさせ、複数個のガトランティス艦隊を単独で殲滅するほどの猛威を戦場で見せつけた。
――後編につづく
主力戦艦の設定妄想を書いている時に宿題として残した艦底のタンクの理由付けがようやくできましたw
未だ公式作品化されていない時代のことですので、オリジナル設定を多く含んでいます。
尚、本設定の世界観は、当ブログで過去に公開しました『主力戦艦(ボロディノ型宇宙戦艦)』と共通しています。
特に地球が独自に製造した波動コア(テラジウム・コア)や波動砲に代わる決戦兵器(拡散衝撃砲)の開発経緯等については、そちらで先に御確認いただくことをお勧めします。
2211年に就役した地球圏最大最強の宇宙戦艦。
本型の建造がヤマト型宇宙戦艦を強く意識したものであったことは、計画時の艦政本部内呼称が『“超ヤマト型”宇宙戦艦』であったことからも明らかだ。
前人未到の往復三〇万光年を遥かに超える大航宙を成功させ、文字通り地球と全人類を救う活躍を示したヤマト型一番艦『ヤマト』――しかし意外にも、ヤマト計画本部において設計業務を担当した艦政本部員達にとっては、決して満足し得る艦ではなかった。純技術的観点で言えば、ヤマト型の実態は建造途中の武装移民調査船に無理やり次元波動エンジン搭載改装を施した艦であったからだ。
もちろん、改装にあたっては当時の地球で望みうる最先端技術と資材、頭脳が惜しげもなく投入され、就役した艦は十二分な完成度を有していたが、それでもオリジナルの艦の規模や許容された建造期間、入手可能資源の限界から諦めなければならない仕様・性能も少なくなかった。艦の設計に責任を持つ艦政本部員にしてみれば、次元波動エンジンの搭載を前提に新たな艦を設計した方がより優れた艦が実現できるのは自明であっても、当時の地球の物的・時間的ファクターがそうした理想論を許容しなかったのである。
それは『技術者たる者、到達可能な最高度を追求すべし』という技術者としての矜持に反するものであったが、人類滅亡という究極的危機状態においては否応もなかった。加えて、彼らにとっては妥協の産物でしかない筈のヤマトが達成した成果があまりに偉大であったことも、ガミラス戦役後、彼らの“超ヤマト型”に対する欲求と渇望を歪な形で強めてしまったと言えるのかもしれない。
彼らに与えられた“超ヤマト型”実現の最初のチャンスは、ガミラス戦役後初の次元波動エンジン搭載戦艦である『ボロディノ型宇宙戦艦』計画時だった。この際、彼らは戦役中から予備検討を進めていた400メートル超級大型宇宙戦艦案を満を持して提示し、国連統合軍の軍政を司る『軍務総局』からも強い支持を得た。軍務総局はガミラス戦役後の地球軍事力を象徴する“ポスト・ヤマト”をかねてより欲しており、奇しくも艦政本部の一部が提唱する“超ヤマト型”と思惑が一致したのである。
当時、六大州及び各行政管区の軍務局を束ねる軍務総局の長には、極東管区軍務局出身の芹沢虎鉄が就き、戦役中に発言権と実務権限を著しく増した軍令部門(実戦部隊)に対して巻き返しを図っていたが、ヤマトを筆頭に実戦部隊が成し遂げた戦果とそれに対する市井からの支持と信頼は圧倒的で、巻き返しは容易ではなかった。
軍政部門の復権には、実戦部隊を手なずけられるだけの高価な“オモチャ”と、あまりに偉大なヤマトを一挙に過去の記憶にまで押しやれるだけの圧倒的存在が必要というのが軍務総局の判断であり、更に芹沢総局長個人について言えば、ガミラス戦役のきっかけとなったガミラス探査艦隊への先制攻撃指示に係る黒い噂が常につきまとう自らに対し、地球帰投直前に病没したヤマト艦長 沖田十三の一輝かしい功績への対抗心が動機の多くを占めていたと言われることも多い。
だが、こうした艦政本部の一部と軍務総局の奇妙な共闘関係も結局は実を結ぶことはなかった。当時の国連宇宙海軍の戦力整備方針は、まずもって太陽系防衛に足る『最低数量』の確保であり、個艦性能の重視は二の次、三の次でしかなかったからだ。その結果、『ボロディノ型宇宙戦艦』にはより量産性と調達性に優れる260メートル級設計案が採用されることになるのである。
それは“超ヤマト型”推進論者にとっては新たな失意の結果であったが、実際問題として、ボロディノ型が計画された2202年頃の地球の状況では、400メートルを超える巨艦を多数調達・整備することは財政的にもインフラ的にも非現実的であり、推進派が“地球の現状も理解できない時代錯誤の対艦巨砲主義者”と揶揄され、白眼視されるのも無理はなかった。更に言えば、仮にボロディノ型が400メートル級宇宙戦艦として建造されていたとしても、結局は“超ヤマト型”推進論者の満足する艦には到底なり得なかったことも確実だった。なぜなら、ボロディノ型が使用できたのは地球製波動コア『テラジウム・コア』のみであり、本コアの次元還元効率がイスカンダル純正の波動コア『イスカンダリウム・コア』に対して決定的に劣る以上、性能面でヤマトを超えることは絶対に不可能だったからだ。
後の技術検証で、テラジウム・コア実装艦にヤマト並みの戦闘力を持たせるには、コア複数をクラスター化した超大型波動エンジンが必要であり、艦のサイズは最低でも700メートルを超えると判定されている。尚、コアをクラスター化(複列化)することで大出力を得るというアイデアは、ガミラス帝星での戦闘において救出されたヤマト船務長の証言から得られたものであった。
結果的にボロディノ型検討において“超ヤマト型”は不採用にはなったものの、検討を通じて“超ヤマト型”を現実の存在とする為に必要な前提条件が改めて整理されたこと、過去に例をみない大型戦艦設計における基礎が固められたこと、そして何よりイスカンダリウム・コアが必要不可欠であることが改めて理解されたことが、後のアンドロメダ型建造時にも大きな役割を果たすことになるのである。
“超ヤマト型宇宙戦艦”の実現には、その存在を成立・維持するに足る経済力と社会資本に加え、何よりイスカンダル製波動コアが不可欠――それがボロディノ型計画時に再認識された冷徹な事実であった。経済力やインフラについてはガミラス戦役以降、地球の着実な復興により遠からず解決されるであろうことが確実視されていたが、イスカンダル製波動コアの扱いは極めて政治性が強く、解決の目処はおろか、糸口すら見出せない状況が続いた。
なぜなら、当時の地球が保有するイスカンダル製コアは、イスカンダル王国第一皇女“サーシャ・イスカンダル”によって地球にもたらされ、そのままヤマトに実装されたコア(コア1)と、ビーメラ星系第四惑星から回収されたコア(コア2)の、僅か二基のみであったからだ。
この内コア1は、未だ地球環境回復プロジェクト用特務艦としてコスモ・リバースシステムを稼働させ続けているヤマトが実質的に独占(プロジェクト完了はどれ程早くても2225年とされていた)していたから、運用の自由が確保されているのは唯一“コア2”のみであった。当然、実質的には唯一無二の存在である“コア2”の使用権限は高度な政治性を帯びており、軍の一担当部局程度で運用を決定できるような存在ではなかったのである。
つまり、“コア2”の積極使用には何らかの政治的決断が必要であったが、その機会はガミラス戦役休戦から5年を経てようやく訪れることになる。有史以来初となる全地球規模の統一政体――『地球連邦』――の発足決定だ。
2206年から予備的活動を開始した地球連邦仮政府は、2211年の正式発足にあたり、全地球市民に新時代の幕開けと未来の安寧を確信させる『象徴』を強く欲しており、その『象徴』として予てより計画が浮上しては消えていた“超ヤマト型宇宙戦艦”に白羽の矢が立てられたのである。こうした政治環境の変化に艦政本部と軍務総局の“超ヤマト型”推進論者たちは直ちに呼応、僅かな期間で計画を整えていった。
当時、国連宇宙海軍(後の地球防衛軍地球防衛艦隊)は第二次補充計画(2204~2206)をほぼ予定通り完遂し、太陽系を防衛するに足ると判断される戦力が最低限ながらもようやく充足されつつあった。2206年時点で、続く第三次補充計画(2207~2209)の内容もほぼ固まっていたが、急遽本計画の予備費枠が拡大され、“超ヤマト型”の設計検討と建造資源調達予算が織り込まれた。全ては“超ヤマト型”の完成と就役を2211年の地球連邦政府発足式典に間に合わせる為で、こうした予算上の特例措置により2207年から実質的な建艦作業が開始されたことで、本型は辛うじて2211年度初頭の就役が可能となった。但し、地球の戦闘艦艇としては初めて400メートルを超えた巨大戦闘艦を詳細設計開始から僅か四年で就役に至らしめるのは決して容易ではなく、実際の設計・調達・建造作業は突貫に次ぐ突貫であった。
また、本型の一番艦、二番艦の建造を担当したのは当時最も高い宇宙艦艇建造能力を持つとされたノースロップ・グラマン社のニューポート・ニューズ造船所及び三菱重工業 長崎造船所(ヤマト建造を担当した坊ノ岬沖特設ドックは、長崎造船所の工場疎開時に設置された分工場である)であったが、それでも400メートル級の巨艦建造にはドックサイズが不足しており、建造に先立ち大規模なドック拡張工事が実施されている。また、両造船所は技術レヴェルの高さ故に対抗心も旺盛であり、それぞれの艤装委員長も巻き込んで競い合うように艤装改正を行った。その結果、完成した一番艦、二番艦は細部においてはかなりの相違点を有していたという。
“超ヤマト型宇宙戦艦”が“アンドロメダ型宇宙戦艦”と正式に命名され、一番艦『アンドロメダ』二番艦『ギャラクシー』が就役したのは、地球連邦政府の発足式典が開催された2211年1月1日のことであった。命名式は式典内の一イベントとして執り行われ、会場上空を低空でフライパスしたネームシップ『アンドロメダ』の雄姿が式典に華を添えた。ヤマトをも遥かに上回る巨艦でありながら優美且つ未来的な艦影は、招待客や各種中継で式典を視聴していた地球市民たちに、新時代の到来を実感させるに十分なインパクトを持っていたとされ、その点で言えば、アンドロメダ型の建造目的の一つはこの時点で完全に達成されたと言っても過言ではないだろう。
アンドロメダ型の建造隻数は2210年度予算で二隻『アンドロメダ』『ギャラクシー』、更に次年度予算で一隻(艦名未定)の建造が予定されていた(もちろんアンドロメダとギャラクシーの予算承認は名分的なものである)。
当初は、2211年度に就役するアンドロメダ型は三隻が要求されていたが、予算上の問題に加えて本型を建造可能な設備の不足から、大きく二期に分けた調達が図られたのである(2211年に予算承認された三番艦の就役は2214年度とされていた)。アンドロメダ型を建造・補修可能なドックはニューポート・ニューズと長崎のみであり、アンドロメダとギャラクシーの建造完了後、ニューポートではアンドロメダ型三番艦の新造、長崎は就役済み二隻の補修整備を担当することになった。
よく知られている通り、本型の三隻という建造隻数は地球が有するイスカンダル製波動コアの数量から決定されたものであった。
地球が運用の自由を確保していたイスカンダル製波動コアは“コア2”ただ一基のみ。それにも係らず三隻ものアンドロメダ型建造が企図されたのは、いかなる状況においても常時一隻のアンドロメダ型を実戦配備状態に置きたいという国連統合軍(後の地球防衛軍)の強い希望によるもので、三隻のアンドロメダ型とその固有の乗員は『配備』『整備(休養)』『即時待機』という三サイクルのローテーションによる運用が企図されていた(もちろん“コア2”は『配備』状態のアンドロメダ型に支給されることになる)
更に、ガミラス戦役のような国家危急の折には、緊急措置としてヤマトから“コア1”を譲り受け、『即時待機』状態のアンドロメダ型を『配備』状態に持ち込むことすら計画されており、この場合、二隻のアンドロメダ型を同時に実戦配備状態に置くことが可能であった。但し、この措置は未だ稼働状態のヤマトのコスモ・リバースシステムを強制停止することと同意であり、危機終息後、波動コアをヤマトに再装着したとしてもコスモ・リバースを再稼働できるのかという点に強い懸念があった。しかし、人類の存亡に係る非常時には地球環境の再生よりも人類の存続を優先するという政府方針が改めて示され、地球連邦政府大統領権限でのみ実行可能な非常措置として法制化が行われたのである。
政府と軍がこれほどまでにアンドロメダ型の配備数に固執したのは、ひとえに同型の有する圧倒的な戦闘能力に原因があった。各種シミュレーションで確認されたそれは、当時の地球防衛艦隊の決戦戦力(機動戦略予備)である第一及び第三艦隊すら単独で撃破可能と判定されるほどであったからだ。
当時の第一・第三艦隊はいずれもボロディノ型宇宙戦艦八隻、アルジェ型宇宙巡洋艦八隻を主力とした所謂“八八艦隊(エイト・エイト・フリート)”編成を採っており、通常編成の艦隊の数倍の戦闘能力を有するばかりか、『メ号作戦』時に臨時増強された大ガミラス帝国軍 太陽系派遣艦隊の全盛期戦力ですら撃破可能と評された空間打撃部隊であった。しかし、それほどの戦闘実力を以ってしても、アンドロメダ型には抗し得ないという判定が下されたのである。
更にシミュレーション検討においては、アンドロメダ型とヤマト型の戦闘能力の比較も行われており、アンドロメダ型を撃破するにはヤマト型ですら(現実的には有り得ない想定だが)四隻以上が必要という結論が導き出されていた。
つまり、アンドロメダ型の戦闘能力は地球の宇宙軍事力を一〇パーセント単位で変動させるほどの影響力を有し、ありていに言えば、その不在は決戦戦力の半減に他ならなかったのである。その点、たとえ建造・維持コストが破格であっても、アンドロメダ型の三隻建造は費用対効果的には十分に理に適った行為である――そう計画推進者たちは主張していた。
こうした、圧倒的という言葉ですら不足するアンドロメダ型の性能が、本型とヤマト型以外の次元波動エンジン搭載艦が装備する地球製波動コア(テラジウム・コア)より遥かに高い次元還元効率を誇るイスカンダル製波動コア(イスカンダリウム・コア)に起因していることは言うまでもないが、その性能は前述した通り同一コアを使用するヤマト型をも大きく凌駕している。
ヤマト型との性能差異は、艦体サイズの大型化と周辺補機類の小型化成功により、機関規模がヤマト型の実に二倍にまで達したこと、ヤマトでは重視された移民探査艦的要素(汎用艦的要素)を極力切り詰め、戦闘艦としての仕様・装備に特化したことが主たる要因として挙げられる。
建造途中の武装移民探査船にイ式次元波動エンジンを急造的に搭載したヤマト型に対し、アンドロメダ型は設計段階から同機関の搭載を前提とした純然たる戦闘艦であり、その仕様・装備は全て対艦戦闘に特化していた。こうした(多目的艦としての汎用性を極めたヤマト型とは対照的な)戦闘艦としての徹底は、前型であるボロディノ型宇宙戦艦も同様であったが、多くの困難を伴ったボロディノ型の建造及び運用実績が反映された結果、アンドロメダ型の完成度は就役当時から非常に高かった。
これらの要素に加え、ボロディノ型において初めて試みられた『タキオン粒子発振増幅制御装置』の強化も、ヤマト型との性能差異を一層拡大する上で大きな役割を果たしている。
現在では単に『増幅装置』と呼ばれることも多い本装置の強化原理は比較的単純で、次元還元反応の発生に不可欠な触媒であるタキオン粒子を常用時よりも遥かに高い濃度で波動炉心に供給することで、通常では達成不可能な大エネルギーを得ようというものであった。
宇宙エネルギーとも称されるタキオン粒子は、宇宙空間はもちろん惑星上にも広く分布しており、次元波動エンジン搭載艦船はタキオン粒子を常時捕集しつつ、それを波動炉心へ供給することで次元還元反応を発生させている。
炉心へのタキオン粒子供給は、その濃度が次元還元反応により発生可能なエネルギー量と機関への付随負荷(圧力や熱量)に大きく影響し、供給濃度が低過ぎれば機関規模に対して発生エネルギー量は著しく過小となるし、逆に濃度が高すぎれば、発生エネルギー量に見合わないほど機関に対する負荷が増し、それに対応した重厚で頑丈な(つまりは高価で生産性も劣悪な)機関を用意しなければならなくなる。
当然、『最適濃度』と呼ばれる費用対効果的にベストな機関規模とタキオン粒子供給濃度の組み合わせが存在し、いかなる銀河列強においても(いや、膨大な数の艦船を有する巨大な星間国家だからこそ)純然たる経済的理由から、この『最適濃度』が広く適用されているのである。
勿論、地球もその例外ではなく、ボロディノ型以前の各種艦船に採用されたタキオン粒子供給濃度もこの『最適濃度』だった。供給濃度を更に高め、高コストと低生産性に目をつぶれば、より高性能の艦が実現可能であることも判明していたが、ガミラス戦役終結後の復興と再建に狂奔する地球に必要なのは、まずもって“数”であり、生産性や調達コストに見合わない過剰性能など絶対に許容されなかったからだ。
しかしそうした、経済原則を重視した健全な建艦方針は、次元波動エンジン搭載艦としては初の『生まれながらの戦艦』であるボロディノ型が、260メートル級の小身でありながら列強各国の400メートル級戦艦を凌駕する戦闘能力を求められたことで大きな変化を余儀なくされる。
ボロディノ型は、当時の地球の国力でも大量建造可能な最大規模の艦型が選択されていたが、それでも他国の400メートル級戦艦とは全長サイズで1.5倍、規模にすれば3倍以上の格差があり、常識的に考えて性能上の凌駕は不可能であった。しかし、他国戦艦が長期航宙や多種多様な任務への対応を考慮した“大型汎用艦”的艦艇であったのに対し、ボロディノ型は仕様面において極端なまでの“対艦戦闘艦”への特化を図ることで、純粋な攻防性能に限っては何とかそれらに対抗可能なレヴェルへの到達が可能となった。
だが、ガミラスやガトランティスといった無数の恒星系を有する巨大な星間国家と、弱小且つ新興の単一星系国家にすぎない地球との絶望的なまでの国力差を考えれば、ボロディノ型の戦闘能力は他国戦艦を完全に凌駕する存在でなくてはならならず、このジレンマを解消する為の窮余の策として選択されたのが、高濃度タキオン供給による機関性能の底上げだったのである。
しかし、復興が急速に進みつつあったとはいえ、2200年代初頭の地球の国力では、最適濃度以上のタキオン粒子供給に恒久的に耐久可能な次元波動エンジンの量産は、技術的にも経済的にも非常に困難、現実的には不可能であった。その結果、妥協の産物として、高濃度タキオン供給への耐久は一時的――大規模会戦時などの極めて限定された局面のみ――で良いという決定が下された。
これにより、通常時の艦の運用は最適濃度のタキオン供給で行い、大出力が要求される大規模戦闘等の非常時に限り、高濃度タキオンを供給するという地球独自のシステムが完成をみるのである。
但し、これ程の妥協を図っても尚、その製造コストはタキオン粒子を最適濃度でのみ供給する同規模機関の実に三倍にも達し、更に高濃度供給運転を長時間行った後の機関は各部の消耗から著しく出力が低下する上に、その回復には全消耗部品の交換を含む徹底的なオーバーホールが必要だったことから、生産・運用・維持いずれの面においても財務担当者からすれば悪夢のようなウェポンシステムだった。その為、高濃度タキオン供給――通称『増幅運転』――はデフコン2以上の警戒レヴェルにおいて、所属艦隊司令長官の承認がなければ実施することができないよう強度の制限(システム・プロテクト)がかけられており、このシステムが『最後の手段』であることをいやが上にも際立たせることになる。
このようにコスト上・運用上の制約は非常に大きかったものの、『増幅運転』時の機関性能は通常時の二〇〇%にも達し、決戦時限定とはいえ、その圧倒的な機関出力とそれによって著しく強化される攻防性能は、強大な星間国家との絶望的なまでの戦力格差に怯える地球連邦にとっては、非常に心強いものであった。
当然、地球連邦政府と防衛軍は、当初は以降建造される全ての次元波動エンジン搭載艦艇に本システムの実装を望んだが、やはり製造・維持コストの壁はあまりにも高く、最終的に元々高コストの戦艦級艦艇にのみ導入されることになる。
増幅運転時に使用する高濃度タキオンは、それ単独では可燃性も爆発性も有しない為、外部タンク方式での搭載が可能であった。アンドロメダ型やボロディノ型等、地球における最初期の次元波動エンジン搭載艦は重武装・重防御を追求するあまり、殆ど艦内に余裕のない設計であったから、艦内空間を圧迫しない外部タンク方式は非常に都合が良かった。
ボロディノ型、アンドロメダ型共に、艦体下部に外部タンク二基を装備したが、ボロディノ型のタンク(通称:タキオンタンク)がある程度の防弾性能を有するだけの圧力タンクであったのに対し、アンドロメダ型のそれはタンク単独でもタキオン粒子の捕集が可能な最新型であった。
その差は大きく、ボロディノ型でのタキオンタンクへの充填は、通常時に捕集したタキオン粒子の内、機関へ供給されなかった余剰分でのみ行われる為、一たび増幅運転が開始されれば、後はタンク内の粒子を使い切るまでしか増幅運転を継続することができなかった(加えて、機関そのもの耐久性の点からも長時間の連続増幅運転は困難だった)。これに対し、アンドロメダ型は増幅運転開始後も、タンクがタキオン粒子を独自に捕集し続けることで、より長時間の増幅運転を継続することが可能であり、機関の耐久性もコストと生産性を度外視した構造強化によって十分に確保されていた。
だが、こうした外装式タンクは後のガトランティス戦役にて、被弾による内部漏洩や流失が相次ぎ、システムとしての思わぬ脆弱性を晒すことになる。予定通りのスペックが達成できたのは全戦艦中の半数あまりに過ぎず、その結果、ガトランティス戦役以降、より抗湛性の高い内蔵タンク方式が主流となり、後の更なる技術革新――第二世代次元波動エンジン(スーパーチャージャー搭載次元波動エンジン)――の嚆矢となるのである。
とはいえ、ガトランティス戦役においても、地球戦艦は艦サイズからは想像もできないほどの戦闘能力を突如として発揮するとして、ガトランティス軍にとっては恐怖と驚愕の的であったという。ボロディノ型ですらそうした評価であったから、基本的な戦闘実力ではボロディノ型に十数倍するアンドロメダ型の増幅運転時の戦闘能力は、まさに猛り狂う伝説の巨竜“リヴァイアサン”を彷彿とさせ、複数個のガトランティス艦隊を単独で殲滅するほどの猛威を戦場で見せつけた。
――後編につづく
主力戦艦の設定妄想を書いている時に宿題として残した艦底のタンクの理由付けがようやくできましたw