Quantcast
Channel: 我が家の地球防衛艦隊
Viewing all articles
Browse latest Browse all 276

『一三月動乱 act.01:ボラー連邦共和国末期の概況』

$
0
0


 最盛期、天の川銀河の実に七〇パーセント近くを勢力圏とした超巨大星間国家――ボラー連邦共和国――の衰退はあまりにも急激だった。
 その原因とされた事件は、大きなものだけで三つある。
 『第一次銀河大戦』『ベムラーゼ連邦首相殉職(戦死)』『赤色銀河交差事件』だ。
 各事件の経緯や原因を詳述するのは別の機会に譲るとして、ボラー連邦にとっての不幸は、これらの大事件が立て続けに、それも数年内という極めて短期間に発生したことだった。結果、連邦内は大混乱に陥り、一部星系では無政府状態にも近い騒乱すら発生してしまう。
 しかし不幸中の幸いと言うべきか、異次元から唐突と言う他ないタイミングで現れた赤色銀河は、交差対象である天の川銀河に大混乱を発生させたことで満足したかのように、発生時と同じ唐突さで消失した。また、銀河交差という未曾有の天変地異によって破滅的な影響を受けていたのは銀河大戦での敵手――ガルマン・ガミラス帝国――も同様であり、結果的に戦争どころではなくなった両国間にて実質的な休戦(自然休戦)が成立するに至る。
 この時、正式な休戦・停戦交渉が行われなかったのは、ボラー連邦が未だガルマン・ガミラス帝国を国家として承認していなかった為であり(あくまで“叛徒”“反乱勢力”という扱いであった)、正式な国家承認と停戦の成立は、その後更に十年近い年月を待たなければならなかった。
 しかし、連邦を苛んでいた二つの『外患』はこうして一応の終息を迎えたものの、『内憂』は未だ残されたままだった。
 太陽系で死亡したベムラーゼ首相は、後世において『独裁者』としての悪名ばかりが取り上げられることの多い人物であるが、そうした極端な恐怖政治を行ったのは治世最後の一年間程だけで、それ以前はその風貌と声音から “妖怪”と渾名されつつも、老獪で隙の無い内政・外交を行う現実政治家として知られた人物であった。彼が政府首班を務めた十年間で連邦領域は二五パーセントも拡大し、過去最大の版図に達したことでもそれは証明されている。当時の連邦では、ベムラーゼの治世が更に十年も続けば、天の川銀河の大半はボラー連邦の有するところとなり、他銀河への大規模進出すら確実視されていた程だ。
 しかし、現実はそうした予想を悉く裏切った。ボラー連邦、いやベムラーゼ首相にとって最大の誤算は、マゼラン銀河からの闖入者――大ガミラス帝国――であった。
 密かに天の川銀河各地に浸透していたガミラス帝国は同一ルーツの救済という大義名分を掲げると、連邦が保護国化したばかりの核恒星系の大国『ガルマン共和国』に突如侵攻、周辺星系も含め瞬く間にこれを制圧し、『ガルマン・ガミラス帝国』なる新国家を成立させるに至る。
 大・小マゼラン銀河随一の強国として勇名をはせた大ガミラスの軍事力は、既に百年以上、大規模な戦争を経験していなかったが故に、軍事技術的停滞期を迎えていたボラー連邦軍を各地において圧倒した。装備、指揮官、兵、戦術――あらゆる面で、長年に渡る戦乱を戦い抜いたガミラス軍はボラー連邦軍を優越しており、連邦のアドバンテージは唯一、物量のみであったと言っても過言ではない。
 だが、ガルマン・ガミラスの興隆は軍事力格差だけに起因したものではなかった。近年のベムラーゼ首相による急激な領域の拡大は連邦内に様々な軋轢と格差、歪みを生んでおり、これまで表面化することはなかったそれらの問題が、ガルマン・ガミラスの勃興を契機に一挙に噴き出した格好となったのである。特に、近年になって強引な手法で保護国化や連邦加盟を強いられた各地の星系国家は、これを好機とみて連邦からの離反を画策、様々なサボタージュや場合によってはガルマン・ガミラスへの接近を図る国家すら現れた。
 ある意味、国家としても軍としてもほぼ総崩れ状態に陥ったボラー連邦であったが、それを立て直したのもまたベムラーゼ首相の“豪腕”だった。
 彼は、自らが国軍の最高指揮官であることを改めて表明すると、前線での怯懦や後方での怠惰が目立つ連邦軍将官多数を一斉に更迭、職務上の不正が発見された場合には容赦なく極刑や流刑などの厳罰を下した。こうした裁定(実際に判決を下したのは連邦最高裁判所であったが)は、伸長著しいガルマン・ガミラスへの恐怖と連戦連敗の軍に対して強い不満を抱いていた連邦市民から大喝采を浴び、ベムラーゼ首相の名声を俄然高めた。そうした市民の後押しを受ける形で彼は『連邦大元帥』という軍の最高位階級を新たに創設し、自らをその任に就けることで、軍に対する実質的指揮権限を以後急速に強めていくことになる。
 また、連邦から離脱を図った星系に対しては、連邦法規定にある『外患誘致』の咎でこれを厳しく断罪、当該星系の自治権返上や政府首脳部の総辞職など、極めて厳しい要求を突きつけた。戦慣れしたガミラス軍に対しては劣勢とはいえ、ボラー連邦の軍事力は単一星系国家や中小規模の星間国家のそれとは隔絶しており、大半の星系は苦渋の末にこれらの要求を呑まざるを得なかった。しかし、極少数の星系は連邦の圧力に屈することを頑として認めず、星系軍を動員して徹底抗戦の構えをみせる。これに対するベムラーゼ首相の回答は、当時の戦略兵器『プロトンミサイル』による当該星系の完全殲滅であった。
 それまでベムラーゼ首相を熱狂的に支持していた市民・軍人たちも、さすがにこの蛮行には震撼した――しかし、非難の声は殆ど上がらなかった。いや、市民たちはその時になって初めて、そうした声を上げる自由を奪われていることに気がついたのである。
 この時既に、ガルマン・ガミラスの脅威に怯えた市井からの圧倒的支持で成立した『連邦非常事態法』と本法に基づき連邦首相に与えられた『非常時大権』によって大量動員された秘密警察と政治将校が、市民と軍に厳しく目を光らせており、首相の政策に異を唱えようものなら即座に逮捕、投獄されるまでの状況に至っていたからだ。
 それでも、数度に渡り大規模な市民デモや部隊反乱が連邦各地で発生したが、それら全ては非常事態法に基づき大量動員された連邦正規軍によって迅速且つ徹底的に鎮圧され、以後はそうした騒乱の存在を語ることすら憚れるほど、ベムラーゼ首相による合法的恐怖支配は強化されていくことになる。
 だが、そうした無慈悲なまでの強権行使があったことで、辛うじて連邦が維持されたこともまた事実だった。それほどまでに、大ガミラスが天の川銀河全体に与えたインパクトは絶大であり、もし当時の連邦首相が凡庸な人物であったならば、この時点で連邦が四分五裂していたと主張する歴史家も数多い。
 ベムラーゼ首相が、自らの強権行使が連邦の維持と建て直しに必須であると固く信じていたことは、後に公開された彼の書簡や語録からも明らかだ。そしてそれ故に、彼は自らが行使した強権が徹底されないことを酷く恐れていた。
 結果、彼は自らの政策を阻害する可能性のある政治家や、強権に対してサボタージュや反乱の恐れのある官僚・軍人の排除に血道を上げることになる。そこに独裁者特有の猜疑心や嫉妬心が存在したであろうことは疑う余地がないが、結果的にそれらの “粛清”を通じた恐怖支配によって、彼の命令がほぼ確実に遂行される国家体制が急速に作り上げられていった。
 ある意味、ベムラーゼ首相は連邦を構成する全ての人々に対して敵(ガルマン・ガミラス)よりも強い恐怖を与えることで、体制を維持することに成功したのである。だがそれは、ボラー連邦にとって有為な人材をも排除してしまう結果ともなり、彼の死後に生起した連邦の政治的混乱の非常に大きな要因となった。
 ベムラーゼ首相が太陽系で殉職(連邦大元帥としての立場で言えば“戦死”)した際、連邦には首相職を即座に引き継ぐことが可能なだけの見識と力量、人望を有する政治家は皆無となっており、一応は後任の首相職が任命されたものの、実質的な国家運営は三つの有力な政治勢力による合議で行われることになった。
 この時、実質的に政権を担った三つの勢力は、それぞれ『共和派』『実務派』『守旧派』と称されていた。
 『共和派』は、ベムラーゼ治世下の連邦非常事態法によって著しく機能と権限が制限された連邦議会と市民権の復権を強く主張する一派で、それ故に市民からの支持は絶大だった(非常事態法そのものはベムラーゼ首相死去から程なくして廃止されており、その時点で本来の意味での共和政体が復活している)。
 『実務派』は高級官僚出身の政治家集団であり、地球であればノーメンクラツーラとでも揶揄されるような存在であった。軍や市民からの支持は乏しいものの、比較的安定した国家運営が長期間継続したことで官僚制度が極度に発達したボラー連邦においては、最も国家実態を知ると共に、ベムラーゼ首相亡き後、最も実務権限を有している勢力でもあった。
 これらに対して『守旧派』は、軍部と経済界の利益代表という側面が強く、ガルマン・ガミラスの登場までは連邦領域の際限なき拡大を、登場以降は領域の回復とそれに伴う軍事力増強を旗印としたタカ派集団であった。
 これら三派による一種のトロイカ体制は、国家危急の折の集団指導体制と言えば聞こえはいいが、その実態は『烏合』『寄せ集め』の感が極めて強く、その政策決定は常に遅れがちで、勢力間対立は最早日常茶飯事であった。
 当然、そんな不健全極まりない状態で決定された国家方針は選択と集中を著しく欠いており、その必然として前線の連邦軍は各地でガルマン・ガミラス軍に押しまくられ、国内経済も悪化の一途を辿っていた。

 しかしそんな中、銀河規模の大自然災害『赤色銀河交差事件』が発生する。

 この時、政権は共和派が主体となり、首相職を務めていたのも共和派の首魁であった。しかし、未曾有の大災害に対し、現状を無視した思いつきのような指示を連発するばかりで、被害極限の為の思い切った決断を何ら下すことができないまま、支持母体である連邦市民達からすら激しい非難を浴びてしまう。
 結果、唯一の拠り所であった市井からの支持を失ったことで、共和派は急激に勢力を衰えさせ、政権も総辞職に至った。その後、現実路線を掲げた実務派が中心となって政権を引き継いだものの、今度は実務派と守旧派との対立が先鋭化し、連邦内の混乱は収束の糸口すら見出せない状態が続くことになる。
 二派の対立の焦点は、今回の大災害に対して連邦軍をどこまで動員するか、そして最大の敵手であるガルマン・ガミラス帝国との関係性をどのように定義するかであった。
 守旧派は、災害派遣に対する連邦軍派遣は最小限とし、むしろ本災害を奇禍としてガルマン・ガミラスに対し領域回復の為の大規模な軍事行動を強く求めていた。
 これに対し、実務派は守旧派の主張はあまりにも非現実的で、何より災害による損害と影響を過小評価し過ぎているとして強く異議を唱えた。広大な連邦領において十全の災害救援活動を行える組織は、自己完結性の高い艦隊・部隊を豊富に有する連邦軍をおいて他になく、その為ならば極論、連邦全軍を災害派遣に充てても良いというのが実務派の考えであった。
 また、実務派はガルマン・ガミラスに対してもより積極的な関係構築を視野に入れており、これを機に国家承認と国交樹立、休戦協定まで一気に進めることを主張していた。
 どの道、戦略級の恒星間弾道弾(プロトンミサイル)多数を互いに向け合った状態では、相手国を根こそぎにしてしまうような大戦争は最早不可能であり、であるならば、未曾有の大自然災害への対応を理由に握手してしまった方が、長期的な内政・外交上の利益が大きいというのがその理由であった。
 だが、未だ旧領土の回復どころか天の川銀河の完全制覇にすら固執している守旧派はこれを頑として認めず、結果的にボラー連邦軍において災害派遣に動員されたのは、最盛時でも総戦力の三割程度に止まった。軍の動員に強い権限を有する守旧派と軍内部の強硬派が結託し、それ以上の災害派遣を阻止してしまったのである。
 その結果、各地の災害救援はもちろん、その後の復旧と復興も遅々として進まず、連邦財政に長期に渡り大き過ぎる負担をもたらすことになる。そして、ガルマン・ガミラスへの反攻作戦用として災害派遣に動員されなかった大部分の連邦軍も、銀河交差の被害と混乱を原因とする極度の物資不足から兵站体制を確立することができず、実際には大規模な侵攻作戦など思いもよらなかった。しかしそれでも、侵攻作戦参加部隊は“災害派遣に投入されないようにする”というだけの理由で集結と待機を命じられた為、それら膨大な戦力は未曽有の国難に対して何ら役割を果たすことができなかったばかりか、無為に物資を消費するだけの遊兵と化してしまった。
 これとは対照的だったのがガルマン・ガミラス帝国で、帝国元首――デスラー総統自らが先頭に立って帝国軍を全力で動員、即座に災害派遣に投入している。場合によってはボラー連邦軍と睨み合う戦域からの撤退すら行ってまで戦力を捻出し、長期的被害を限定することに成功していた。

 結果的に、赤色銀河交差事件の事後処理に失敗したボラー連邦は、国家として致命傷一歩手前の大ダメージを受けることになった。即座の国家滅亡・崩壊に至らなかったのは、ガルマン・ガミラス帝国が銀河交差以降、殆どの対外軍事行動を自ら停止した結果、第一次銀河大戦が実質的な休戦状態になったからに過ぎない。しかしそれでも、経済的破断界目前のボラー連邦に自然回復は全く期待できず、何らかの積極的な決断を下さなければ、そこに待っているのは国家の緩慢なる死であることは、最早誰の目にも明らかであった。
 だが、それほどの状況にあっても尚、軍需企業群をバックにした守旧派は膨大な軍事予算の獲得と連邦軍の野放図な増強を求めており、何とかして国家財政の立て直しを図りたい実務派を日々絶望させていた。
 そして絶望と焦燥の果てに、実務派は一つの政治的策謀を画策するに至るのである。



――『act.02:危急』へつづく


さて、久しぶりに『宇宙戦艦ヤマト2199』でも『2202』でもなく、本ブログのメインコンテンツ『地球防衛艦隊2199』ネタとなります(^o^)
ヤマトIIIの護衛戦艦を活躍させる為の小噺として書き始めたのですが、(いつものことながらw)思った以上に文章が長くなってしまったこと、本年4月以降、まとまった文章を書く時間が殆ど取れず、書くのが停滞してしまっていることから、書き上がっている部分から先に公開することにしました。
現状、act.03までは完成していますので、これらを順次公開していきます。
完結はact.05の予定ですが・・・・・・06まで伸びちゃうかもなぁ・・・・・・いつものことながら。
しっかし、ヤマト系のトレンドはすっかり『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』に移っている中で、よりにもよってボラー連邦が舞台の文章って、我ながらホンとに物好きですねぇw
そして38年前の本日8月5日は『さらば宇宙戦艦ヤマト』公開記念日。
うーむ、どこまでもズレてるなぁ・・・・・・私は(^_^;)

Viewing all articles
Browse latest Browse all 276

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>