※注記:本文章はオリジナル版『宇宙戦艦ヤマト』世界における艦艇設定を妄想したもので、『宇宙戦艦ヤマト2199』及び『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は考慮していません。
2202年1月、ガトランティス戦役はヤマトをはじめとする地球防衛艦隊の“死戦”と、敵超大型戦艦(旗艦)の謎の爆発消失によって地球連邦の辛勝に終った。
しかし、その過程で地球防衛軍が被った損害はあまりにも甚大だった。
多数の艦船、航空(宙)機、根拠地、そして人員。
戦役前ですらぎりぎりの体制で維持されていた組織だけに、ここまで損害が膨大では、どこから再建に手をつけて良いのか、目処すら立たない状況であった。しかしそれでも、再建は速やかに為されなければならなかった。短期間の内に外宇宙から二度もの侵略に晒された以上、“三度目”“四度目”が無いとは誰も言い切れなかったからだ。
よって再建は、とにかく手がつけられるところから順次開始されることになる。特に機動運用可能な各種戦闘艦艇の確保は愁眉の急だった。そしてその際、大きな役割を果たしたのが、白色彗星認知直後の“仕分け”により、建造凍結されていた艦艇たちであった。
これらの未成艦群は、一部は帰還した損傷軽微な艦艇の復旧用に資材・部品を供出し、逆に一部は、なんとか帰投したもののあまりの損傷故に廃棄が決定した艦から使用可能な部品や資材を譲り受け、早期完成が目指された。そしてその中に、今やアマギ級宇宙空母唯一の生き残りとなった“グローリアス”の姿もあった。しかし彼女を待ち受けていた運命は、他艦とは大きく異なっていた。
完成が急がれたのは他艦と同様だったが、その中でも原設計とは大きく異なる設計・仕様を新たに盛り込まれることが決定したからである。そうした決定が下された背景には、フェーベ沖会戦の結果があった。
半ば軍内部の政治的妥協の産物であった筈のイロモノ――アマギ級宇宙空母――が、宇宙空間における艦隊航空戦において意外なほど“使える”ことが判明したからだ。またそれとは対照的に、いかにも本格空母然としたガトランティス軍空母が露呈した脆弱さは、地球防衛軍首脳部が抱いていた空母観に大きな修正を強いていた。
更に、空母という艦種そのものの必要性も再認識された。
フェーベ沖会戦では、太陽系各地から土星の各衛星根拠地に集結していた多数の基地航空隊機は殆ど活躍することができなかった。各基地から会戦宙域までの距離が大き過ぎ、航続距離的に戦力投入が困難だった為だ。
ガトランティス戦役以前の地球防衛軍の戦術構想では、基地航空隊は『波動砲搭載戦艦群』『宙雷戦隊』に次ぐ第三の戦力の柱と捉えられていただけに、そのショックは非常に大きかった。土星圏に結集した地球防衛軍の航空隊総数は九〇〇機にも及んだが、その内の2/3以上が戦闘に参加できない状態――実質的に遊兵化されてしまったと言えば、そのショックの大きさも分るだろう。
あるいは、土星宙域での決戦において第一航空艦隊が編成されず、当初の戦策通りに母艦航空隊と基地航空隊が共同し、基地航空隊の航続距離圏内で艦隊防空に徹していれば、空母の必要性がここまで叫ばれることはなかったかもしれない(尤もその場合、航空戦は圧倒的多数の戦力を有するガトランティス軍機動部隊の勝利に終わった可能性が高いが)。しかし、いつの時代も軍人とは何よりも実績を重んじる人々であったし、宇宙空間という広大・広漠に過ぎる戦場においては、拠点所属の航空隊が『戦場の選択』という戦術よりも戦略に近い領域で柔軟性に欠けるのは論理的にも自明であった。
それ故に、いかなる宙域においても戦力展開・戦力投射可能な空母の必要性が改めて見直され、基地航空隊に代わる戦力の柱としての整備が急がれることになる(従来の母艦航空隊は基地航空隊の“補完戦力”という扱いであった)。その優先度は、規模の面はともかく戦艦部隊と全く同等とされており、その事実が地球防衛軍の空母に対する認識の変化を何よりも雄弁に物語っていた。
しかし、フェーベ沖の栄光を担った五隻の宇宙空母は戦役中に悉く喪われており、地球防衛艦隊が有する唯一の空母は未成状態で放置されていたグローリアス只一隻であった。この完成を急ぐのは勿論だが、一隻では数量的な不足は明らかであり、新造艦の増強も必須であった。
しかし、新造するにしても現状のアマギ級のままで良いのかという問題もあった。フェーベ沖で大戦果を挙げたアマギ級であったが、初の実戦参加で明らかになった欠陥や改善を要する事項も多数存在したからだ。
(1)艦規模に比して飛行甲板・格納庫共に極めて狭小
(2)後方への発艦は、発艦機の時間的・エネルギー的ロス大
(3)損傷・メカトラブルを考慮し、エレベーターは二基以上要
(4)弾薬庫容量(継戦能力)の不足
(5)防空火力不足
これらの戦訓は、全滅した一航艦の数少ない生き残り――ヤマトやシラネ、艦載機隊等――からの聴取によって得られたものであったとされる。
(1)は、建造時から懸念されていた戦艦と空母のハイブリッドという存在故の搭載機数の少なさだけでなく、搭載に係る柔軟性の欠如についても強く指摘していた。
フェーベ沖会戦において、一航艦空母群は露天繋止により搭載機数の水増しを行っていた。こうした行為は、航宙中の宇宙塵(デブリ)との接触による機体の損傷や人員の損害を考えれば、決して褒められた行為ではなかったが、フェーベ沖会戦のような短期間の星系内邀撃戦であれば、その確率は無視できる程度でしかなかった。寧ろ、搭載機数増大による瞬間的な戦力向上こそを重視すべきであり、本来“空母”という艦種はそうした柔軟性に富んだ存在の筈だった。
しかし、アマギ級の設計において露天甲板は、あくまで“発艦甲板”としてのみの扱いであった為、艦幅からすればより広大な甲板を設置することも可能であったにも係らず、設計要求にあった二機同時発艦が可能な最小の面積しか有していなかったのである。
(2)については、アマギ級設計時点で地球防衛軍が有する空母の建造・運用実績がヤマトしかなかったこと(特設艦は除く)が大きく影響していた。ヤマトに搭載された航空隊に比べて、アマギ級の航空隊は規模こそ大きくなったものの、基本的な運用思想はあくまで『防空(CSP)』であり、その点ではヤマトと大差なかった。
故に、アマギ級の発艦システムはヤマトと同じく後方離脱方式とされ、発艦機は艦後方の宙域で一旦集合、編隊を組んだ上で防空配置に就く事とされた。この方式は艦近傍のみを作戦域とする防空任務であれば問題は少なく、寧ろ発艦と同時に敵砲火を浴びせられる可能性を最小にできるという点での優位性もあった。
しかし、攻撃任務における後方への発艦は、一分一秒を争う航空戦において攻撃目標到達までの時間的ロスになるだけでなく、長距離を往復する攻撃機の推進剤ロスにも直結する。
基本的に発生する事象は攻撃任務でも防空任務でも同じなのだが、投入される任務により各ファクターの優先順位が異なってくる為、メリットがデメリットに、デメリットがメリットに変化してしまうのである。
とはいえ、計画時においてアマギ級が攻撃任務への投入を殆ど考慮していなかったことも忘れるべきではない。言うなればこの指摘は、地球防衛軍の空母運用思想の変化によって生じたものとも言えた。
(3)は、フェーベ沖会戦で唯一ガトランティス側の航空攻撃で被弾したアマギ級四番艦レキシントンの戦訓に基づいていた。
本会戦においてレキシントンは、ガトランティス攻撃機が放った対艦ミサイル一発を被弾した。被弾箇所は艦中央部であり、隠遁式パルスレーザー砲二基が破損したものの、戦艦譲りの強固なヴァイタルパート内に損害は無かった。しかし、被弾による衝撃で一基しかない搭載機昇降用エレベーターが故障してしまったのである。
幸い、被弾が第一次攻撃隊発艦後であった為、レキシントンの格納庫内は故障機を除いて “空”の状態であり、帰還機の受け入れも他艦に分散して行われた。しかし、それが可能であったのは、第一次攻撃隊の損害が激しく、機数を大きく減らしていたからに過ぎない。
結果的に大事には至らなかったものの(後述する弾薬不足の一因にはなったが)、被弾のタイミングによっては格納庫内の機体が全て無力化されていた可能性もあり、フェーベ沖での彼我の戦力差と戦闘経過を考えれば『幸運』の一言で済ませることもできなかった。
(4)については、定数以上の機体を運用したこと、そして前述した通り、設計時に求められた同級の任務が“防空”であったことがここでも影響していた。アマギ級の弾薬庫は比較的小型の空対空兵装を主に搭載することを前提に設計されていた為、より大型の対艦攻撃兵装を中心に搭載した場合、搭載数量が大きく減少してしまうのである。
事実、フェーベ沖会戦終了時点で、アマギ級各艦の艦載機用弾薬はほぼ払底しており、たとえ機体と搭乗員が確保できたとしても、それ以上の作戦行動は事実上不可能であった。
(5)は同級の原設計艦であるボロディノ級主力戦艦でも指摘された問題であったが、“空母”であるアマギ級においては、その問題はより深刻であると捉えられていた。
ボロディノ級の設計思想は『たとえ戦艦といえども、艦隊というシステムを担う一要素に過ぎない』という向きが強く、ある意味では自らの能力を極めて限定していた。極論、ボロディノ級の性能は波動砲投射とショックカノンによる砲戦に特化し、防空戦闘は艦隊を構成する他の中小型艦が担うものとされていた。言い換えればボロディノ級主力戦艦は、複数の艦で戦隊や艦隊を組んで初めて所要能力を発揮できる艦であると定義することができる。
アマギ級宇宙空母も、艦体の半分以上を流用していることもあり、ボロディノ級の設計思想を色濃く受け継いでいた。しかし、“大艦巨砲主義”に染まった地球防衛艦隊では、戦艦に比べて戦力価値が低い空母に十分な護衛が付けられないのは明らかであり、事実、一航艦編成前に各巡航空母戦隊に附属していたのも、防空能力などほぼ皆無の旧式駆逐艦ばかりだった。
幸い、フェーベ沖会戦の結果、空母に対する地球防衛艦隊の評価は大きく改まっていたが、ガトランティス戦役において大小問わず多数の艦艇を失った影響はあまりにも大きく、少なくとも当面は空母に満足のいく護衛戦力が付けられる見込みは乏しかった。
地球防衛艦隊としては、既に建造がかなり進捗しているグローリアスはともかく、新規建造空母については以上の(1)~(5)の解消は必須であると主張していた。しかし、未だ空母という艦種の建造・運用実績に乏しいこともあって、短期間での新空母設計の取りまとめは困難とも考えられた。単純な設計作業のみならず、幾つかの技術的課題(前方発艦等)と専用装備の開発については一から検証を行わなければならなかったからである。
そうした状況において白羽の矢が立てられたのがグローリアスだった。
この未成艦に技術検証艦としての側面を持たせて完成させようというのがその骨子であり、艦政本部は既にほぼ完成している空母モジュールの大掛かりな改造(場合によっては新造)まで視野に入れていた。しかしこれは、一日でも早いグローリアスの戦力化と各種試験開始を求める地球防衛艦隊の強い反対に遭い、改造は最小限に留められることになる。
最終的に、防衛艦隊と艦政本部の協議によってまとめられたグローリアスの改設計案は概ね以下のようなものであった。
(1)飛行甲板(発艦甲板から改称)を現構造で可能な範囲で拡大。
(之に合せ、発艦・着艦・駐機用スペースを其々設置)
(2)従来の着艦口を閉鎖。不要となった旧着艦甲板は格納スペースに転用。
(3)従来の昇降機を撤去。発艦機用・着艦機用に其々サイドエレベーターを新設。
(4)近接防空用パルスレーザー砲塔を増設。
項目としては多岐に及んでいるが、船殻の大掛かりな改造は慎重に避けられており、建造再開から三ヶ月以内の完成が目指された。
後に『改アマギ級』若しくは『グローリアス級』と呼ばれることになる本艦の運用面での最大の変更点は発艦・着艦方法の変更だった。発艦は飛行甲板左舷側からの前方発艦方式とし、着艦は右舷側を使用した後方からのアプローチを基本としていた。発艦方法の変更は、前述した通り攻撃任務時の即応性向上を目指したものであり、本艦での運用と検証結果を踏まえ、新空母の発艦装備の最終調整が行われることになっていた。
これに対し、着艦方法の変更は艦内格納庫の有効活用という側面が強かった。従来の直接格納庫に機体が着艦する方式――ダイレクト・イン方式――では、元々スペースに余裕の無い格納庫内に着艦・制動区画を設置しなければならず、機体格納の点では少なくないデッドスペースになっていた。これをグローリアスでは、露天の着艦甲板に着艦後、機体は専用エレベーターを用いて格納庫内に収納する方式――タッチ・アンド・イン方式――に変更することで、格納庫内から着艦・制動スペースを取り除いていた。
またこれに伴い、発艦甲板の中央に設置されていたエレベーターを撤去し、新たに両舷に各一基のサイドエレベーターを新設することで、懸案だったエレベーター予備機をも確保している。
以上により、グローリアスはオリジナルのアマギ級に比べて、コスモ・タイガーIIクラスの機体で六機の格納機数向上を達成していた。レイアウト的にはもう二機程度の格納機数向上も可能であったが、そのスペースはもう一つの懸案だった弾薬庫の拡張に用いられている。
また、搭載機数の点では発艦甲板と着艦甲板の間(飛行甲板中央部)に駐機スポットを十分に確保したことで、フェーベ沖会戦時のような露天繋止にも無理なく対応できるようになった。竣工後のグローリアスの搭載機定数は、コスモ・タイガーⅡ及びその電子偵察型である“タイガー・アイ”の合計四二機(アマギ級は三六機)とされたが、更に六機程度を露天繋止の併用で運用することもできた。
改設計後のグローリアスの完成は2202年5月であった。
スケジュールを前倒しての完成は、建造に係った関係者の尽力は勿論だが、建造資材の割り当てを他艦よりも優先されたことが大きかった。事実、グローリアス完成を促進させる為に、建造中だったボロディノ級主力戦艦“プロヴァンス”用に準備されていたショックカノンや伝導管が転用されている。結果的にプロヴァンスの就役は大幅な遅延をきたしたが、その点を以ってしても、“空母”に対する地球防衛軍の評価の変化を窺い知ることができる。
尚、建造凍結時にグローリアスが多くの艤装品を譲ったボロディノ級“ヴァンガード”は、ガトランティス戦役にて奮戦空しく喪われており、本来グローリアス用に準備されていた艤装品を取り戻す機会は永久に失われていた。
翌月、地球防衛艦隊への引き渡しを慌ただしく終えたグローリアスは、殆ど日を置かずして実運用が開始された。就役にあたり、同艦の乗員にはアマギ級やボロディノ級の乗艦経験者が多く集められており、人員面からも早期戦力化が図られていた。搭載が予定された艦載機隊も、苦しい台所事情の中からヴェテランパイロットが部隊要所に充てられている(当時、地球防衛軍の熟練搭乗員は一航艦壊滅と共に払底していた)。
こうした努力の全ては、次期空母検証艦としての活動を一日でも早く開始する為であった。
この時期、既に次期空母(後の“キエフ級戦闘空母”)の建造作業は開始されており、グローリアスでの実証データがそのままリアルタイムで建造中のキエフ級の仕様に反映されるという非常に強引な建造態勢が採られていた。その為、出航中は勿論、根拠地停泊中も同艦には多数の造船官とメーカー技術者が乗艦し、各種試験とそのデータ収集に従事していた。
技術検証の上では、生存しているアマギ級の乗艦経験者と元所属航空隊員を強引にかき集めたことが非常に有効だった。既に実艦全てが失われている以上、短かったアマギ級の就役期間内に培われた技術やノウハウは、“人”の経験や記憶の中にしか残存していなかったからである。
極めて濃密な検証期間は半年にも及び、艦政本部と航空本部が用意した試験メニューの大半を消化し終えた時には、艦も乗員も疲労の極みに達していた。航空関係の艤装品の幾つかは耐用規定回数を超えるまで酷使されており、早くも大規模なオーバーホールの必要性が指摘されていた程だった。
しかしその甲斐もあって、グローリアスでの試験・検証データの集積は充分な質と量が確保されており、それらを反映したキエフ級の初期ロット艦群は既に完成し、就役も間近に迫っていた。
その結果を受け、グローリアスも一先ず“次期空母検証艦”としての使命を終えることになるのである。
当初の予定では、検証艦としての運用試験終了後のグローリアスは、キエフ級が一定数揃うまでは第一線の主力空母として、そしてキエフ級が十分に普及して以降は練習空母に充てられることが予定されていた。
建造年次的には未だ新鋭艦と言っても差支えのない彼女が、早々に練習艦化まで考慮されていたのには勿論訳がある――運用面での経済性の悪さだ。
同級艦を持たないことに加えて、検証艦として装備された特殊な専用艤装品は多数に上り、更には発展型とも呼ぶべきキエフ級に比べれば低い艦載機運用能力は、長期的な費用対効果の面で、一線級空母として用いるには経済性が悪いと判断されたからである。また、今後の改装等によりキエフ級と装備品をできるだけ共通化したとしても、速力や艦載能力の違いを埋めるのは容易ではなく、現実的にキエフ級との統一行動には難があると判定されていた。
これと似たような評価を受けた艦にガトランティス戦役以前の“ヤマト”がある。ヤマトも、ガミラス戦役後に新造された艦との規格・仕様・性能面での相違が大きく、その維持には膨大な運用コストを要すると認識されていた。改装により、可能な限り規格のフィッティングが為されていたものの、それも程度問題に過ぎないというのが実情だった。それ故、ガトランティス戦役が勃発せず、地球防衛艦隊の拡充が順調に進展すれば、遠からず記念艦として現役を退くことも予定されていた。
しかし、ガトランティス戦役後の状況の変化がそうした予定を根底から覆した。深刻な大型艦艇不足という現実に加えて、“再び地球を救った”ことに対する褒章的意味合いや、再度の侵略に晒された連邦市民に対する精神安定剤としての役割を期待されたことから、ヤマトの当面の記念艦化は完全にキャンセルされている。
だが、グローリアスにはそうした数値化できない役割や効果は期待できず、ヤマトのような“特例”が与えられる余地は少ないと考えられた。大型艦の不足が深刻な数年以内はともかく、ある程度の艦隊陣容が整う五年後以降の練習艦化は半ば以上確定事項だった。
だが、そうした確定事項に思わぬところから待ったがかけられた。待ったをかけたのは――他ならぬ地球防衛艦隊司令部であった。
この時期、地球防衛軍並びに地球防衛艦隊司令部は、単独運用可能な外洋大型艦艇を強く欲していた。
ガトランティス戦役緒戦におけるテレザート星への調査派遣、2202年のイスカンダル事変時の救援派遣、いずれも当時の地球防衛艦隊においては長距離・単独航宙能力に秀でたヤマトにしか実施不可能な任務であった。もちろん、派遣に至る経緯(そもそもテレザートへの派遣は防衛軍が意図したものではなかった)や派遣に際してのヤマト幹部乗員の行動には数々の問題があり、実際に査問会も開かれている。しかしその査問会や防衛艦隊内の調査委員会においても、過程や渦中の問題はともかく、派遣そのものの妥当性は否定できないという判断が下されていた。
ガミラス戦役以来、地球は短期間の内に複数の外宇宙勢力に遭遇し、イスカンダル王国を除く全ての勢力と交戦状態に陥っていた。それを思えば、今後も非常に短いスパンで外宇宙勢力との接触が発生する可能性や、同時多発的に複数の勢力との間で外交事案(紛争を含む)が発生する可能性すら真剣に考慮されなければならなかった。
ガミラス戦役以前であれば、複数の外宇宙文明との接触が同時に発生するなどという想定は一笑に付されかねないものであったが、近年のあまりに苛酷な現実がそうした想定すら現実的なものとして肯定したのである。
外宇宙勢力との同時多発的な接触を想定した場合、遠隔地へ迅速且つ単独で展開可能な艦船を複数有することは危機抑止・早期解決の上で必須と考えられた――仮にテレザートやイスカンダルのような事態が同時に発生したら――という訳だ。
しかし、当時量産と配備が進んでいた地球防衛艦隊の艦艇は、ごく一部の例外を除き近傍迎撃型艦隊構成艦として機能と性能を限定した艦ばかりであり、高い汎用性を求められる単独任務に耐え得る艦は皆無であった。長期航宙能力にしても、太陽系内邀撃戦を第一義とした重武装化・重防御化の代償として、中型艦以上にすら限定的にしか付与されていないのが現実だった。また、過去のヤマトの戦訓から、あらゆる面で柔軟性が求められる長期の単独任務においては、まとまった数の航空機運用能力も必須と考えられていた。
当時の地球でそうした要求に応え得る艦――長距離特務艦――は、実質的にヤマト一隻のみであり、仮にそうした周辺事態がヤマトの不在時(他任務中や長期入渠中)に発生した場合を思えば、ヤマトと同等の性能・機能を有する艦の増強は愁眉の急だった。その結果、運用における経済性の点でヤマトと似た“境遇”を持つグローリアスがその候補として挙げられたのである。その存在が特殊なのであれば、特殊なものとして徹底的に使い潰してしまえばよい――という判断だ。
元々、地球防衛艦隊司令部は、本用途(長距離特務艦)に新鋭のキエフ級を充てたいという意向を持っていたとされる。キエフ級は艦載能力の向上を主目的として、オリジナルのボロディノ級やアマギ級に比べても飛躍的な大型化を果たしており、その余裕のある艦体に長期航宙に耐え得る給兵・給糧設備まで建造時から搭載していたからである(勿論、地球防衛艦隊が要求したからこそ搭載された装備であった)。
だが、大型化に加えフェーベ沖の戦訓や様々な技術進歩まで取り込んだ同級の建造費用はアンドロメダ級戦略指揮戦艦並みに高騰し、グローリアスとは別の意味で、とても単独では前線に出せない高価で贅沢な艦になってしまっていた。
これに対し、グローリアスは規模あたりの運用コストこそ大きいが(つまり割高だが)、キエフ級に比べて艦規模そのものが小さい為、絶対額としての運用コストはキエフ級より有利だった。またそのコストは、グローリアス以上に特殊仕様と専用艤装品の塊であるヤマトと比べても、充分に納得できるものだった。
その結果、就役から一年も経ずしてグローリアスの長距離特務艦化を目的とした近代改装が決定された。改装は長期航宙能力の付与やキエフ級との艤装品共通化のみならず、艦政本部の強い意向で、当時計画中だった『ボロディノ級改善』のテストベッドとしての新装備搭載も盛り込まれている。
この『ボロディノ級改善』の基本コンセプトは、ボロディノ級設計時と比べても飛躍的に進歩した最新の波動関連技術のフィードバックは勿論、各種装備品・機器の小型化によって艦内余剰空間を確保し、従来の地球艦艇に不足していた居住性、給兵・給糧能力を大幅に向上させようというものであった。その点で言えば、グローリアスの改装目的と合致している部分も多く、艦政本部から“相乗り”を求められた地球防衛艦隊司令部にしても渡りに船という感すらあった。寧ろ、そうした技術的進歩がなければ、リソース余裕の乏しさから、主砲戦能力や艦載能力を一部削減するといった決断を行わない限り、グローリアスに満足な長期航宙能力を付与することは困難と考えられていたからだ。
一方、ボロディノ級改善を企図していた艦政本部も、就役済みのボロディノ級のいずれかを使用し、できるだけ早期に改善に向けた技術実証を行いたいと実戦部隊である地球防衛艦隊に予てより申し入れていた。彼らとて、量産性と早期就役を第一優先に建造されたボロディノ級主力戦艦が空間打撃戦能力はともかく、無限機関である波動エンジンを有しているにも係らず長期航宙能力が欠如しているなど、性能バランスに欠ける面があることは重々承知しており、その解消・改善をアップデートという形で実現したいと考えていたのだ。
しかし、ガトランティス戦役後の深刻な大型艦不足が長期のドック入りを要する技術検証を実現困難なものにしていた。その為、そこに降って湧いたグローリアス改装計画への便乗は、艦政本部としても渡りに船だったのである。
ある意味、地球防衛艦隊と艦政本部の利害が見事に一致したグローリアスの改装計画は速やかに実行に移された。だが、その完成は当初の予想を超えて大きく遅れることになる。
新たなる外宇宙からの侵略――デザリアム戦役の勃発だ。
開戦劈頭の電撃的な奇襲侵攻により、地球防衛軍の太陽系内防衛網は完全に瓦解、一週間と経たずして地球連邦政府はデザリアム帝国の軍門に下った。
生まれ故郷である英国デヴォンポート宙軍工廠にて改装工事中だったグローリアスも進駐してきたデザリアム帝国軍に鹵獲されてしまう。当然、改装工事は完全に中断、長らく工廠内のドライドックに改装中の無力な姿を晒し続けることになった。
2203年10月、デザリアム戦役は劇的な逆転で地球の勝利に終わり、停滞していたグローリアス改装工事もようやく再開の運びとなった。幸い、二重銀河からの侵略者たちはグローリアスに対して破壊や破棄などは行わず、技術調査を幾度か実施しただけだった。
一説では、デザリアム帝国は地球に傀儡政権を樹立し、その後の再軍備まで計画していたとされる。その目的が、当初は未だ降伏をよしとしない地球防衛軍残党の討伐、そしてゆくゆくは、彼らの星間戦争の尖兵とすることであろうことは想像に難くない。
だが、その結果として地球に残された軍事力は厳重な監視付ではあったが、ほぼそのまま保全されており、ガトランティス戦役後と比べれば遥かに良好な状態から地球軍事力再建を開始することができた。グローリアスの改装工事もその勢いに乗る形で急ピッチで進められ、2204年6月には再就役を果たしている。
こうして、ようやく再就役に至ったグローリアスであったが、結果的にガトランティス・デザリアム両戦役において入渠したまま一切戦局に関与できなかった彼女に対し、防衛艦隊将兵は半ば疫病神に対するような悪名や悪評を奉っていた。
『永遠の戦乙女』はともかく、『船渠の女帝』『長化粧の女王』、果ては『またかグローリアス、身支度の間に戦(いくさ)は終わった』等、浴びせられた異名や揶揄は枚挙に暇がない。後発のキエフ級戦闘空母群がデザリアム本星への遠征に参加し、艦隊航空戦力の中核を担う活躍を示したことも、グローリアスにこうした批判が浴びせられる一因になったと思われる。
長期に渡り中断していた改装工事が再開されるにあたり、グローリアスの改装メニューには当初計画になかった新装備・新技術が幾つも追加されていた。その最大のものが波動機関の第三世代化――スーパーチャージャー搭載――だ。前年のヤマトの第二次近代改装時にプロトタイプ機関が実装され、デザリアム戦役においても、その性能と効果が高く評価された次世代の波動エンジンシステムである。
グローリアスの初期の改装計画時にも一度は俎上に上がったものの、ヤマトでのプロタイプ実証結果の反映がスケジュール的に間に合わないとして断念された経緯があった。しかし、デザリアム戦役による大幅な建造遅延を奇禍として、改めて新システムの搭載が決定されたのである。
グローリアスに搭載された第三世代波動エンジンは、ヤマトの搭載した試作型(プロトタイプ)に対して試験型(テストタイプ)として識別されている。ヤマトのような、完全な機関刷新による基本出力の大幅な向上や強化型波動砲(通称:新・波動砲)の装備といった野心的な性能はあえて狙わず、既存の第二世代高効率型波動エンジンへの予備炉心増設による連続ワープ機能と波動砲発射後の機能復旧の迅速化に重きを置いた堅実な設計でまとめられていた。
第三世代化を果たした改装後のグローリアスの波動エンジンは、特に稼働率と経済性において高い評価を得ており、その経験と実績は後のボロディノ級やアルジェリー級、オマハ級等の近代改装時に活かされることになる。本改装により第三世代化を果たした波動エンジンは便宜上“増備型”と称された。
これに対し、ローマ級主力戦艦やアムステルダム級戦闘巡洋艦等の次世代艦艇群が搭載した第三世代波動エンジンは、ヤマトやアリゾナ級の試作型をベースとした完全新作機関であった。開発系譜的には、ヤマトの“試作I型”、アリゾナ級の “試作II型”、日本国において試作I型をベースに限定量産されたユウバリ級護衛巡洋艦用の“先行量産型”、これらの技術を統合、更に改良・発展させた“正規量産型”となる。特に、波動砲関連設備は試作II型を踏襲しており、これは地球防衛艦隊及び艦政本部がアリゾナ級で確立された新型波動砲――拡大波動砲――の搭載に強く固執した結果であった。
また機関の第三世代化と同様、ヤマトの第二次近代改装時に初めて試みられた主砲のカートリッジ化も、専用実包である“波動カートリッジ弾”の予想以上の戦術効果が評価された事で、グローリアス改装に織り込まれることが急遽決定した。当然、この決定がボロディノ級主砲への波動カートリッジ弾適用を睨んで布石であったことは言うまでもない。
紆余曲折の結果、遂に再就役を果たしたグローリアスは改装前と比べ外観にこそ大きな変化はなかったが、その内側は様々な実証・近代化・改善・新規計画が入り混じった、まさに“鵺(ぬえ)”のような存在であったとされる。
実際、彼女の艦内は改装前からのキエフ級用テストベッドとしての仕様に加え、新たにボロディノ級改善、ヤマト級近代改装のフィードバック、更には次世代新戦艦(後のローマ級主力戦艦)用の試験装備まで設置されており、装備の多彩さと先進性ではヤマト級にすら匹敵すると評された程だった。当然、それらの装備は先進性に見合った高性能を誇るが、その運用に熟練した乗員を要求するのもヤマトと同様であった。幸い、地球防衛艦隊もその点は十分に理解していた為、改装後のグローリアスは古参乗員がヤマト程でないにせよ他艦に優先して配属されている。
2204年6月の再就役以降、グローリアスは地球防衛艦隊司令部の直轄艦として錬度の向上と新装備慣熟を目的としたシェイクダウンクルーズに努めた。地球防衛軍としては2205年後半を目処に地球初の本格的な長期外宇宙探査任務に本艦を投入する計画であったが、思わぬ事態により計画は画餅に帰してしまう。
ガルマン・ガミラス帝国軍の放った戦略級惑星破壊ミサイル(プロトン・ミサイル)の太陽誤爆に端を発する所謂『太陽危機』の発生だ。
人類滅亡と星系破滅を突如として突きつけられた格好となった地球連邦政府であったが、当初の危機感は決して大きくはなかった。むしろ、危機を予見し警告を発した地球連邦大学宇宙物理学部長サイモン教授を更迭するなど、その初動対応の拙さは後に大きな批判を呼ぶことになる。
しかし、そんな政府内部にもサイモン教授の警告に強い危機感を抱く者が少数ながらも存在した。地球人類にとって幸運であったのは、その一人が地球防衛軍司令長官――藤堂平九郎――であったことだ。
後方での指揮が大半とはいえ、三度に渡る星間戦争をしぶとく戦い抜いた藤堂の経験はサイモン教授の警告に強く反応しており、半ば独断で地球人類が移民可能な惑星の探査を決断するに至る。後に“第二の地球探し”と呼ばれる地球人類初の大規模外宇宙探索である。
しかし、議会制民主政体を敷く地球連邦において、連邦大統領と議会の意向を無視して正式命令を下すことは防衛軍長官といえども不可能であった為、当初はあくまで練習航海の名目で探査艦を送り出すしかなかった。また、送り出せる艦も、子飼いとも言うべき防衛艦隊司令部直轄艦のみであり(勿論、山南修防衛艦隊司令長官との間で非公式の合意はできていた)、結果的に長距離・長期航宙能力を有するヤマトとグローリアスの二隻に探査特務艦として白羽の矢が立てられた。
本任務に合せ、二隻には惑星探査任務を円滑に運ぶべく試製四式空間輸送機『コスモ・ハウンド』が新たに配備され、航空団編成にも変更が加えられている。これは、カテゴリー的には中型機となるコスモ・ハウンドの格納容積を確保する為で、グローリアスの場合は以下の編成に航空団が改編された。
○第六空母航空団編成(2205年2月時点)
・第二〇一戦闘攻撃飛行隊:F/A-1D『コスモ・タイガーII』:12機
・第二〇二戦闘攻撃飛行隊:F/A-1D『コスモ・タイガーII』:12機
・第八電子偵察飛行隊:R/E-2B『タイガー・アイ』:2機
・第八七輸送飛行隊/第二分遣隊:XC-4『コスモ・ハウンド』:4機
惑星探査用の多目的輸送機として急遽配備が決定したコスモ・ハウンドは、元々はガトランティス戦役後の2202年に次世代多目的機として開発された機体であった。その開発コンセプトは極めて野心的なもので、ワープ機構を有する最小サイズの波動エンジンを装備した万能機として計画されていたのである。
その開発背景に、フェーベやカッシーニで基地航空隊の過半が遊兵化された苦い戦訓があったのは言うまでもなく、基地から戦場が遠過ぎて到達困難なのであれば、ワープで一気に肉薄すれば良いという極めて直截的な解決手段として本機の開発が決定された。開発は、ウェポンベイに大量の対艦ミサイルを詰め込んだ攻撃機型に加えて、護衛機の役割を果たすガンシップ型、戦術輸送機型が平行して開発されていたという。
実用化に成功すれば、エポックメイキングな機体となるのは確実であったが、本機最大のポイントである波動エンジンの小型化は困難極まりなく、結果的に2204年を待たずして開発中断が決定されている。
だがそれも無理はなかった。2230年代においてですらフルスペックの波動エンジンの搭載には最低でも50メートル級の機体(もしくは艇)が必要というのが常識であり、それを30メートル級の機体で実現しようとした当時の目標が高すぎたのだ。
尚、既知の存在として最小の波動エンジン搭載機はガトランティス帝国軍が運用した戦略偵察型デスバテーターであるが、“戦略偵察機”というカテゴリーが示すとおり、その配備機数は極めて少なく、逆に言えば、ガトランティスのような大帝国であっても、こうした高価すぎる機体を損耗率の高い攻撃機任務には適用できないことが見て取れる。
波動エンジンの搭載はあえなく頓挫したもの、ワープデバイスを除いた機体は既に完成しており、皮肉にもその完成度は航空本部内でも高く評価されていた。結果、太陽危機勃発時に多目的運用が可能な艦載輸送機の必要が叫ばれた際、既存では条件に見合う機体が無かったこともあって、開発が中断していた本機に急遽白羽の矢が立てられたのである。
ワープドライブ可能なフルスペックの波動エンジンを小型化する上で最大のネックとなるのは、空間から捕集したタキオン粒子を濃縮する濃縮機構であった。特に、ガミラシウム等の波動触媒を介しない地球製波動機関は所謂『高濃縮型』であり、その濃縮機構は特に堅牢且つ大掛かりな装置が必要で、2202年に開始されたコスモ・ハウンドの開発においても、本機構が機体内に収まり切らず、開発が頓挫したという経緯があった。
しかし、濃縮機構を完全にオミットする代わりに、予め高濃縮されたタキオン粒子を充填したタキオン・タンクを機体に搭載すれば、過剰な程のタキオン粒子を一時に消費するワープドライブこそ不可能であるものの、通常飛行(航宙)には全く支障のない簡易波動エンジンが一先ず完成する。
本エンジン最大の特徴は、コスモ・タイガーIIをはじめとする通常の航宙機用簡易波動エンジン――『タキオン・エンジン(別称:コスモ・エンジン)』――が低濃縮状態のタキオン粒子を燃料としているのに対し、高濃縮状態のタキオン粒子を燃料としている点で、機械的デリケートさこそあったものの、その出力重量比は桁違いに高かった。
その結果、紆余曲折の末に本エンジンを搭載することになったコスモ・ハウンドは、非常に高い搭載能力と大航続力、大型機に似合わぬ良好な機動性能を有する万能機として完成を見たのである。特にその機動性能は瞠目すべきものがあり、ヤマト搭載機がガルマン・ガミラス帝国軍の主力戦闘機『ゼー・アドラーIII』の編隊に襲撃された際、無事に逃げおおせるどころか、数機のゼー・アドラーを返り討ちにしている。
また、運用当初は不安のあった、取り回しの難しいピーキーな機関の信頼性についても、航空機関士を常に搭乗させる等の運用上の努力で解消が図られた。
ワープ能力と無限の航続力の獲得こそ断念せざるを得なかったものの、艦載可能な中型輸送機としてコスモ・ハウンドは一六機が増加試作され、第二の地球探しに従事する大型艦に順次配備された(エンジン部前方の多数のスリットはオリジナル設計にあったタキオン粒子捕集口の名残で、将来的な機関換装も考慮してそのまま残されたという経緯がある)。
ヤマトと共に増加試作機四機が配備されたグローリアスでは、重防御・大航続力・高機動性・大ペイロードと三拍子ならぬ四拍子揃ったコスモ・ハウンドの特性を最大限活かすべく、惑星探査航海中に積極的な試行錯誤が独自に行われた。
グローリアスにとって本任務は初の単独・遠距離・長期航宙任務であり、幹部はもちろん末端の乗員に至るまで、自らの自衛戦闘能力に拭い切れない不安を抱えていたとされる。その不安の主たる原因は“ヤマトに比べれば――”という極めて漠然としたものであったが、グローリアス乗員はその不安を危機感に変え、新機材であるコスモ・ハウンドの積極的活用に取り組んでいったのである。
その甲斐もあって、短期間のうちに四機のコスモ・ハウンドには様々な独自改造が施され、惑星探査の傍ら改造機の能力テストも休むことなく行われた。そして探査航海の中盤以降は、以下のヴァリエーションタイプでほぼ固定運用されることになる。
一号機:早期警戒管制型(通称:ハウンド・リーダー)
二号機及び三号機:爆撃機型(通称:ストライク・ハウンド)
四号機:通常型(多目的/輸送型)
早期警戒管制型とは、レドーム式の大出力コスモレーダーを機体上部に追加設置すると共に、戦闘管制官及び多数のオペレータの搭乗により航空隊管制機能を組み込んだ機体である。高濃縮タキオンを用いる簡易波動エンジンから生み出された大電力で稼動するコスモレーダーは艦艇顔負けの大出力を誇り、広域走査は勿論、早期警戒、航空管制に威力を発揮し、コスモ・タイガー隊を中心とする艦載機隊の戦力倍増要素としての活躍が期待された。
これに対し、爆撃機型は本機のオリジナルプランに先祖返りした印象もあるが、その実態はより凶悪且つ凶暴化していた。本機の搭載する対艦攻撃兵装は既存の空対艦誘導弾ではなく、波動カートリッジ弾を改造した極めて特殊な航空爆弾――波動爆弾――だったからだ。
当時は波動カートリッジ弾が実用化されて間もない時期であったが、その大威力には航空隊関係者も早くから注目しており、特に対艦攻撃力不足が深刻だった艦載機隊(コスモ・タイガーII隊)向けに波動カートリッジ弾頭搭載対艦誘導弾の開発が試みられていた。しかし、その実現には弾頭に最小臨界量を超える波動エネルギーの充填が必須であり、それをコスモ・タイガーIIで懸吊可能な誘導弾のサイズ・質量で実現するのは物理的に不可能であった。
結果、コスモ・タイガーII用の弾頭開発は長期の停滞を余儀なくされていたが、グローリアス技術班ではそれを、コスモ・ハウンドの機体サイズと大ペイロードを活かして解決を図った。既存のグローリアス主砲用一六インチ波動カートリッジ弾に簡易な誘導・推進システムを組み合わせることで、“爆弾化”してしまったのである。
あまりに巨大なサイズと質量故に、コスモ・タイガーIIには搭載できないこの特殊爆弾を、本機は最大四発搭載可能であり、二機分八発ともなれば、戦艦の波動カートリッジ弾一斉発分にも相当する。その威力は圧倒的で、ボラー連邦のいかなる大型戦艦をも単独で撃沈可能であるばかりか、密集した戦隊規模の艦隊でも丸ごと撃破可能と判断されていた。
使用可能な機材が中型機以上に限られていたこと、これを継ぐ次世代弾頭が比較的早期に実用化されたことから、この“波動爆弾”は極めて短命な存在となった。しかし、波動エネルギーと暗黒銀河由来の物質(D物質)を融合反応させ、大威力を得ることに成功した次世代弾頭――波動融合弾頭――の配備まで、期間は短いながら波動爆弾が地球防衛軍艦載航空隊が使用可能な最強の対艦攻撃兵装であったことは間違いない。
結果的に仕様として固定されることはなかったものの、グローリアスでは早期警戒型や攻撃機型以外にも、空中給油型(格納庫に増加燃料タンクを設置し、主翼の左右後端から伸ばしたブームで二機同時に空中給油が可能)やガンシップ型(機首及び機体側面に多数のパルスレーザー砲を設置)等も改造試作されており、それぞれ貴重な運用データを残している。
こうした保有機材の独自改造が特例として認められていたのは、補給や補充に絶対的な制約のある外宇宙任務担当艦のみであり、真田技師長以下“地球防衛軍最凶”の名を欲しいままにしたヤマト技術班程ではないにせよ、グローリアス技術班も多数の装備改造実績を残した。
――後編2へ続く
二次創作でも殆ど顧みられることはなく、メカコレが再販されても大抵最後まで残るコスモ・ハウンドを大々的に取り上げたいと思った時点で、文字数オーバーが確定した感じですね(^_^;)
後編2もコスモ・ハウンドを活躍させる為だけに戦闘シーンを入れたような有様ですしw
相変わらず、燃える会話もなければ擬音もない(笑)無味乾燥な戦闘シーンしか書けませんが、一応は書き上がっていますので、年内に公開できるでしょう。
それと細かいところですが、前編の記事も少し手直ししています。
この宇宙空母の記事を書き始めた頃は、コスモ・タイガー等の艦載機のエンジンの原理をどうするかはっきり決めていなかったのですが、『地球防衛軍の航空機と空母機動部隊』を書いた時に一応取り決めましたので、それを反映させました。
前編の最初の方ですので、お時間のある方は再読いただけましたら幸いです。
はてさて、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』にはアンドロメダのバリエーションとして空母タイプが登場するみたいですが、主力戦艦ベースの空母はどうなりますかね?
『2』版の宇宙空母も『PS版』の戦闘空母もどちらも大好物なので、是非登場してほしいですねぇ~♪